第2話 夏の日差しの中で。

蝉の声で目が覚める。


そうだ。昨日はお姉さんに会えたんだ、

それで家にいたはず...


そう思ったけど横を見てもいない。

ベッドの下にいたのは夢...?俺は部屋の中を探し回った。

トイレにも、お風呂場にもいない。


しばらく探した後

夢だったんだ。と思いベッドに背中を預け、座りこんだ。


「そんな都合のいいこと、起こるわけないよな。」


そう言いベランダの方に目をやると。

そこにはお姉さんがいた。

特に使うわけでもないけど

おしゃれかなと思って買ったデッキチェアに座っていた。


安堵のため息が出る。


呑気な顔をして日向ぼっこをするお姉さんを見て

落ち込んだ気持ちが浮つくのを感じ、

口角が上がるのを抑えられない。


そして鼻歌を歌っているお姉さんに声をかける。


「お、おはよう。部屋にいないからお姉さんがいないかと思ってすごく焦ったよ...」


「起きたんだ!おはよう!どんなところに住んでるのか気になって外を見てたんだぁ」


こっちを見てごめんね?と笑う日に

照らされたお姉さんが綺麗で直視できなかった。


呑気な姿を見た時に少しだけ上った

頭の血が下がっていくのを感じる。


昨日から驚きの連続で情緒がおかしくなってるのかもしれない。

だってさっきは落ち込んでいたのにいまはこんなにも胸が高鳴っている。



部屋に戻ったのに鼓動は止まない。

まるで乙女になったみたいだ...。


「顔。真っ赤だよ?具合悪い?」


と本当に心配してくる顔を見て

呑気なその姿に仕返しをしたくなった。


「ははっ、お姉さんが綺麗すぎてかな」


内心すごく恥ずかしいけど

不安にさせられた一方的な仕返しをすると

お姉さんはもう。と言って顔を赤くしながら目を逸らした。


思ってたより成功した。


小学生に会ったときからずいぶん時間が経っている。

だからこそ話したいことが多すぎてうまく言葉にできない。


「ねぇ、夏生君」


「どうしたの?」


真剣な顔をして呼んできたお姉さんは少し躊躇うように口を開く。


「両親とは、うまくやれた?」


俺は言葉に詰まる。


両親とは、もう何年も話していない。

全寮制の高校に入ってすぐに離れたからだ。


「うまく、やれてない」


お姉さんはこっちを見つめて優しく微笑むと


「そっかぁ」


「少し外にでよっか?」


いつもと変わらない調子で言ってくる。


「ありがとう」


聞こえるか聞こえないかくらいで静かに呟いた。


「うん、少しお姉さんと外を歩いてみたい」


と素直な気持ちでそう言うと


「ひまわり畑以外で一緒にいたことないもんね!」


「行こっ!」


俺の手を引いて立ち上がるお姉さんは玄関まで行くと振り返り、

いたずらを思いついた子どものような顔で。


「それと!お姉さんじゃなくて、ちゃんと名前で呼んで?」


そういえば名前、知らない。


「お姉さんの名前なんていうのか、聞かされたことない」


「えっ!ほんと!?」


私の名前はね。


"葵葉あおは"って言うんだよ。


「葵葉」


口の中でそう呟くと

葵葉さんは耳を近づけて


「大きな声で!」


と言ってきた。俺は反射的に


「葵葉!」


大きな声で呼んでしまった。

恥ずかしくて顔が赤くなる。


「それでよし!それじゃあ行こっか!」


にやにやしながらそう言う葵葉さんに

顔を隠しながら頷くしかできなかった。




玄関を開け外に出ると夏の熱気にやられそうになる。

暑いね、と言おうと思ったけど

きっと幽霊だから暑くないんだろうな。


ちらっと見ると、

それはもうかなり汗をかいていた。

え?暑いの?


「あの...暑い、よね」


「すごく暑い...溶けちゃいそうだよ」


幽霊も暑いものなんだな...。

のんびり歩いていると公園が見えた。


公園では楽しそうに子どもたちが遊んでいる。


子どもたちかわいいね。と声をかけようと思い

葵葉さんの顔を見ると


公園で遊んでいる子どもたちを見て

少しだけ悲しそうな顔をしていた。


どうしたのか聞こうと思い

肩を叩こうとした手は何にも触ることなく

葵葉さんの体を通り過ぎた。


「触れない...?」


驚いてしまって少しぼーっとしていたみたいだ。

葵葉さんはいつのまにかこっちを心配そうに見ている、


「大丈夫?暑さにやられちゃったかな?」


「あぁ、いや、大丈夫だよ。ごめんね」


「そう...?無理しないでね?」


「本当に平気だよ」


俺は葵葉さんが心配しないよう笑顔を作り、そう言った。


その後は何かあるわけでもなかった。

少し散歩をした後に帰宅した。


何度かもう一度触ってみようと思ったが

また触れなかったりするのが怖くてどうしても触れなかった。


「ただいまだ!いや〜暑かったね!」


と無邪気に笑う顔を見て、

気付けば頬に手が伸びていた。


今なら触れるだろうか。


やっぱり少しひんやりしている頬に触れた

そう、触れたんだ。手が葵葉さんに比べて熱いのを感じる。


好きだ。そう言い、そのまま顔を近づけて...俺と葵葉さんは...




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