ひまわりの幻に恋をする。

@Hasumi_Zui

第1話 ひまわり畑で。

小学生の俺はひまわり畑によく訪れていた。

そこにはよく、好きな人がいたんだ。

 

その人は多分、20歳ぐらいだったと思う。

俺の初恋だ。

 

「俺!お姉さんの旦那さんになる!」

 

「あはは。ありがとうね。」

 

そうだ。何か約束をした気がする。

 

「もっと大きくなったらもう一度言って?

気持ちが変わらなかったら」

 

はっ。と目が覚める。

今も忘れられない君との約束は思い出せないまま。

 

ひまわり畑に行けば、思い出せるんだろうか。

 

今日大学は休みだ、行ってみよう。

 

「暑いな。やっぱり」

 

7月に入ってさらに気温の上がった

アスファルトがゆらいでいる。

 

そうして電車に乗ったが

ふと、あのひまわり畑に君がいたらどうしよう。

と思った。

 

こんな格好で大丈夫か...?

 

着いた。小学生の頃に住んでいたところだ。

親の影響で引っ越してからは一度も来れてない。

 

駅前の駄菓子屋はもうやっていない。

時の流れを感じる。

あそこで駄菓子を買うのが好きだったんだ。

 

田舎の細い道を歩き、

子どもの時に遊んだひまわり畑が近づいてくる。

そこは誰かに管理されてる訳ではないだろうから

"畑"ではないのかもしれないけど、

 

ひまわりがよく咲く、秘密の場所だ。

 

「さすがに、いないよな」

 

そう呟きながらついに辿り着いたひまわり畑を見る。

 

「あれ。誰かいるのか?」

 

鼻歌が聞こえてくる。

懐かしい声。あの時の。

 

「まさか...」

 

走り出す。君がいる!

ひまわりを傷つけないようなるべく慎重に走った。


そこにあの時の姿のまま、お姉さんが立っていた。

綺麗な黒髪を陽の光に反射させながら


「あ、あの。」

俺が何か言うよりも先に、

 

「久しぶり、大きくなったね。」

とやっぱり少しも変わってない君が言う。

 

「なんでまだ、ていうか、全然変わってない」

 

言葉が詰まる。会いたいと思ってはいたけど

まさか本当にいるなんて。

 

「あはは。夏生君はすごくかっこよくなったね」

 

「こんな格好でごめん...久しぶりなのに」


そう焦りながら言う俺に

 

「変なとこで焦るとこ変わってないね。」


とクスッと笑いながら前と同じで頭を撫でてくる。

 

「あのさ、俺もう大学生なんだ」

 

俺が目をまっすぐに見つめたからか君は

「うん」言いながらと少しだけ目を逸らした。

 

「きっと彼氏とかいるんだろうけど

俺、お姉さんと一緒にいたいと今も思ってる。」

 

そう聞いたお姉さんは目を逸らしたまま

 

「いないよ。彼氏なんて」

 

「まだ好きだったの?一途だね」

 

「私とずっと一緒にいてくれるって約束。覚えてたの?」

 

そう、約束をしたんだ。一緒にいるって。

 

「正直覚えてなかった」


「ほんとに正直だね」

笑いながらそう言った。


「ごめん」

流石に正直すぎたかな、と思いながら今度はこっちが顔を逸らすと。

急に抱きしめられた。

 

「私、君のこと離さないよ?」


真剣な口調でそう言うお姉さんに


「俺だって離さない。」

 

できるだけカッコつけてそう言った。

 

「本当に来ちゃうんだからすごいよ。夏生君は」


そして体を離して目をまっすぐ見つめてきて


「ねぇ、私が幽霊って言ったら、信じる?」

 

衝撃だった。

でもなんだかおかしいことはわかっていた。

 

変わってない容姿、少しだけ感じるひんやりとした空気。

 

あぁ。俺は幽霊に恋をしたんだな。

 

「それでも約束守ってくれるの?」

 

でも、俺はそれでも

 

「お姉さんが好きだ。」

 

お姉さんは涙をこぼしながら

 

「幸せ者だね。私は。」

 

「でも私は幽霊だから、いちゃいけないんだよ」

 

「私は誰にも気づかれずにここにいて、未練がなくなったらいなくなるの」


「でも1人は寂しかったな。夏生君といるときは1人じゃなかった」


話している彼女の体が透け始める。

 

「待ってくれ。俺はお姉さんに何も返せてないんだ」

 

「助けてくれた、恩返しがしたいんだよ...」

 

彼女は消えかけた体で俺の手を握り、

 

「私にとって、君との時間がとても楽しい時間だったんだ。」

 

「だから恩返しとか、そんなの気にしなくていいんだよ」


会うのが遅すぎたのか?もっと早くきていれば、長くいれたのか?


 

「ねぇ。好きだったのは、夏生君だけじゃないよ。」


「夏生君は小学生だったから大きな声じゃ言えなかったけど、私の方が夏生君のこと大好きだよ!」

 

「ありがとう」と最後にそう言い君は消えてった。

 

「なんで、未練はなくなったのかよ」


「今度は俺がお姉さんの未練になるから、戻ってきてくれよ」

 

そんなことを言っていても戻っては来ない。

 

お姉さんは空に帰った。

 

俺は失意のまま帰路に着く。

 

「ただいま。」

 

誰もいないアパートの一室に声が響く。

 

今日は疲れた。風呂にも入らず寝てしまおう。

ベットに倒れ込む。

 

ぼんっという音ともにキャッ。と言う声が聞こえた。

 

「...?」

 

声はベットの下からしたような気がする。

のぞいて、見るか。

勇気を出し覗き込むとそこには君がいた。

 

「なんで、ここにいるの?」


驚きすぎてうまく言葉が出ない。

君は少し気まずそうに笑って。

 

「あの、ね。私夏生君に取り憑いちゃったみたい。」

 

そう言った。

 

あぁ、取り憑いたか、取り憑いたね。

まぁそう言うこともあるだろう。

 

いや、ないな。

 

「また新しく未練ができちゃったみたいで。」

 

未練...いったいなんだろうか。

 

「じゃあ、まだ一緒にいれるってこと?」

 

俺がそう聞くと。

 

「そうだね。この未練がなくなるまでは。」

 

その未練は。なくなるものなんだろうか。

 

「私。夏生君のお嫁さんになりたいって未練ができちゃったみたい!」

 

えへへ。と笑いながら言う君を見て。

死ぬまで一緒にいたいって未練を今度は増やそうと心に誓った。

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