或は蛇足の事

「それで、こんな時間まで床にひっくり返って寝てたと」


「寝てたんじゃない、気絶してたんだ!」


「そんな格好悪いことを堂々と訂正しないでください。そもそもソレは一回渡辺さんのところで見てるんですよね?それなのになんで気絶するほど驚くんですか」


「いや、お前、プライベートスペースである自宅寝室でな、さあ今から寝ようっていうリラックスした状態でだ、布団かぶって天井見たら、それまで何もない空間に知らない女が背を向けて天井からはえてんだぞ?そりゃ気の1つや2つ失うだろ」


「……初めて行き会った渡辺さんですらあわてて外に出れたのに、専門家がこれじゃあ先行き不安でため息しか出ませんね」


「ならお前もプライベート空間を突然侵食される恐怖を味わってみろ!いや、味あわせてやる……この響から賜ったブツをお前の家宛に送りつけてなぁ!!」


「そう来るなら私も葵さんに相談します」


「スミマセンデシタ、調子ニ乗ッテマシタ」


「心がこもってませんが私も鬼じゃありません、コンビニのプレミアムプリン5個で手を打ちましょう」


「ははー、ありがたき幸せー」


「ってこんな馬鹿なことをしてないで、実際その響さんから送りつけられた『呪い』はどうするんですか?」


「ああ、これな。この後準備して弦さんとこの神社に持ってくつもりだよ」


「いつも面倒なことを後回しにする探偵さんには珍しく対応が早いですね。ハッ、もしかして巫女さん姿の弦さんが目当てで……!」


「馬鹿言っちゃいけない。いくら弦さんが俺好みのメリハリのきいたボディと、すべてを受け入れて癒してくれるような慈愛に満ちたアルカイックスマイルの持ち主だからといって、それを拝みに行くのにやる気だなんて思われちゃ心外だ。それに、いつも写真撮影を頼み込んでいるが断られている。だから俺は現地に行くんだよ」


「探偵さん?自分で何言ってるのかわかってますか?ついにまともな会話もできないくらいおかしくなってしまったのですか?」


「ハハハ、大丈夫だとも。これから弦さんのとこに行けるってんで浮き足立ってなんかいないとも」


「これはだめですね、脳に蛆が沸いてしまっています。仕方ないですね、その物は私が責任をもって弦さんに渡してきます」


「は?そんなことさせねえよ?」


「怖いので突然真顔になるの止めてください。どれだけ弦さんに会いたいんですか!ハッ、もしかして洗脳でもされているんじゃ……」


「彼女は俺の乾いた日常のオアシスで清涼剤なんだ!それを取り上げようとするお前はいわば敵、いや、仇といっても差し支えない……!」


「差し支えしかないです。そうですかそうですか、探偵さんがそこまで言うのならわかりました。それなら私はこれ以上何も言いません、その代わり行動で示します。私が善意で行っているこの事務所の広告を今日いっぱいで打ち切りますのでそのつもりで」


「スミマセンデシタ、調子ニ乗ッテマシタ」


「……2度目だとなんだか憐れになってきますね」


 そんな日常の余談。

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