或は蛇足の事

「それで、探偵さん唯一の靴を『送り鼬』さんに献上したと」


「……俺はどうやって外に靴を買いに行けばいいんだ」


「散々文句を言われたんで、私は買いに行ってあげませんからね。もう裸足でいいじゃないですか」


「そんな、わんぱくなガキみたいな事この歳でできるかよ、この際もう家用スリッパでいいか」


「よくないですよ!また事務所の評判を地に落とす気ですか!ただでさえ万年トレンチコートの不審者として地域に名を馳せているのに、これ以上盛るとかもう妖怪か都市伝説になりますよ!ハッ、まさかそれを自分で解決して報酬を得ようと……!なんていう知能犯なんですか、これが地産地消……!」


「全く違う!突然人を犯罪者呼ばわりするな!っていうかなんなの、俺は近所の名物おじさんになってるの?初めて聞いたよそれ、うわぁ嬉しくない……」


「それで嬉しがったらこちらが引きます。……仕方がないですね、今回は特別に私が折れてあげます。特別ですよ?あれだけ小言を言われた私が、仏のような慈悲の心で探偵さんに合う飛び切りの靴を見繕ってきてあげます。特別ですからね?」


「……助かるが、お願いだからもう高級ブランドの革靴なんて持ってくるなよ?後で代金を請求する時に俺が払えないようなものだけはやめてくれ」


「ほんとに注文の多い人ですねー。仕方ありません、今回は6桁前半あたりでカジュアルにまとめてあげます」


「え、お前はここまできて俺が10万単位をポンと出せると思ってんの?どこの平行世界だよそれ、俺に教えろ」


「いえ、これくらいなら次のお仕事が入ったときに返してもらえるかな、と考えて出した数字です。私も返済能力のない探偵さんに無理な貸付はしませんって、返せる範囲ギリギリを目指してます!」


「余計性質が悪いからな、それ。しかも次の仕事がほぼタダ働き確定してるじゃねえか。もういい、お前に頼むとろくなことにならない。俺がスリッパで買いに行く」


「止めてください!ただでさえ少ない依頼が0になってしまいます!」


「ええい、うるさい!離せ!俺には了も葵もまあたぶん響もいる!あいつらから仕事を貰えばいいんだよ!」


「探偵さんにはプライドはないんですか!」


「プライドで飯が食えるかッ!!」


「あのー……すみません、取り込み中でしたら出直しますけど……」


「い、いえいえ、大丈夫です!いつでもどこでも親切対応、上代探偵事務所は24時間365日いつでもウェルカムです!」


「おい、コレット、適当なことを言うな!それからいい加減俺から離れろ!あ、待ってくださいこれは違うんです、事案とかそういうんじゃ、いいから、その取り出した携帯をしまって下さい!お願いします、なんでもしますからぁ!!」


 そんな日常の余談。

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