第53話 ギルド・ラグナロクの最後2
「ふ、ふざけんな!そんな極寒の地に誰が行くか!」
「あら…?国同士の大切な結婚ですのよ?
国民は協力する義務がありますわ
逆らうというのなら…指名手配ですわね?」
「そ、そんな横暴が通じると思ってるのか?!」
「あなた方の言ってる事よりは、横暴では無いと思いますが?」
あきれ顔でギルドメンバーを見つめるヘラさん
そして彼女は、そのメンバーの中から、小柄な少年を見つけ、舌なめずりをした
あの子は確か…
「特にそこのあなた…王宮の兵士になりたいとか言ってましたわよね?
良かったですわね?一気にプリンセスガードにまでなれますわよ」
「ひ、ひいっ!」
「寒さに慣れていない我々が移住すると
三割の方が五年以内に死亡するそうですわね
…一緒に地獄に参りましょう?」
ヘラさんは低いドスの聞いた声で、少年を威圧する
そして、彼の感じた恐怖が、メンバーに伝染していく
「ああ、でも…
『そんなところに行くのは嫌だ!金なんてどうでもいい!今すぐギルドを抜ける!』
…という、どうしようもないヘタレの方まで、連れて行く気にはなりませんわね?」
あ…そ、そういう事なんだ…!
ヘラさんは、道連れにするぞって脅迫して、ギルドをやめさせようとしている…!
「…ギルドはやめてやってもいい、だがその前に金は寄越せ!」
「そ、そうだ!金だ金!」
それでも金を要求し続けるメンバーたち
そのあまりの態度に、ヘラさんが怒りを露にする
「いいかげんになさい…!」
バン!と大きく壁を叩く
メンバーは一気に静まり返る
「わたくしたちのようなクズが!彼女の邪魔をしていいはずが無いでしょう!」
彼女は涙を浮かべ、震える声で、自らをもクズと言い切って、メンバーを罵倒する
そして、その涙をすぐにぬぐい、威圧をし続ける
「報奨金は高額ですが…この人数で割ると、数十万かしらね?
その金をもらってわたくしと一緒に、雪と氷の大地へ行くか
全てを放棄してギルドをやめるか選びなさい!」
「そんなもの、従わな…!」
「これ以上どちらも嫌と言い続けるなら、国賊として捕まえますわ!
永遠に日の目を見ることは無いと思え!」
もはやこれは、女王から下す命令だった
「く…くそっ…くそおおおおおおおおおおおお!」
メンバーもここまでが限界だった
大蛇から逃げた人たちに、命をかけてヘラさんと争う事はできなかった
全員が、ラグナロクをやめて、帰っていった
「すげぇ…口先だけで全員やめさせやがった…」
ヘルメスさんが妙な関心の仕方をする
…確かにすごいけど、ヘラさんは相当無理をしていたように思える
それでも、私のために頑張ってくれた…
「助けていただき、ありがとうございます…」
ここまでではなくても、私ももっと、いじわるな人への対策を身につけるべきだと
…そう感じた
「でも、その…スノーフォレストに行くって…?」
「あはは、まあ…ユピテル様に振られてしまいましたから」
「……」
…私がラグナロクに早く戻っていれば……
ヘラさんが振られる事は、なかったかも…
「…お気になさらないでください」
今までに見た事の無い、ふわっとした笑顔を、ヘラさんが見せる
「わたくし、ウズメ様のおかげで思い出したんですわ
昔は自分も、物語に出てくるような…
誰かのために戦える人に、憧れていたって事を…」
語る彼女のその瞳は、遠い日を懐かしむ様に
「彼らを追い出す口実に使ってしまいましたが…
これは、みなさんの平和を守るための、大切なお仕事ですわ
不義理を散々働いたわたくしですが…せめてその役目を、果たさせてくださいな」
「……」
覚悟を決めた彼女に、私は何も言うことができなかった
ただ、その右手を握り、静かに頷く
今まで口を出さなかったテラスちゃんだが
彼女の左手を握り、私と同じように、静かに頷いた
ヘラさんはただ笑顔で、私たちに手を握られ続けた
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