第52話 ギルド・ラグナロクの最後1

大蛇の騒動が終わり、私たちに報奨金を出すことが、国王様より発表された

今回も兵が間に合わず申し訳ない、と謝っていたけれど

前回よりはるかに短い、出現から数時間で倒したのだから

間に合わなくても仕方ないと思う


それよりも……お金が出るとなると、別の問題が発生する


「おいおいおい、ギルドの仕事放棄して遊んでただぁ?」

「…違います、お仕事で南の島に行っていただけです」

ラグナロクのギルドメンバーが、そのお金をたかりに来たのだ


「ふざけるなよ!俺たちがそのせいでどんなに損したか、わかってんのか?!」

今はラグナロクの酒場で、ギルドメンバー相手に、何があったかの事情を説明している

私が説明している後ろでは、報奨金を払われる予定の

おじさん、ヘルメスさん、テラスちゃん、アマミさん、魔法学校の先生方

そして、それとは別にヘラさんが、待機している


「…私はクビを宣告されてから落とされていたので…

 ギルドに籍が残っているとは気づきませんでした」

「そんな事どうでもいい!俺たちが損をした分の金を寄越せって、言ってんだよ!」

…私が頑張ってた分が無くなっただけで、損などしてないんですけれど


「大蛇討伐でもらった報奨金、あるんだろう?」

「あなた方に払うお金は、1Gたりともありません」

つい最近まで私は、こういう人たちに、いいように使われていた

それでも、真心を持って接すれば、変わってくれると信じてた

けれど、それじゃあ大切なものは守れないと、知った


「…大蛇が来た時、すぐ逃げ出したそうですね」

「当たり前だろ?あんなの相手にしてられっか!」

…私がどんなに頑張っても、真心が通じなかった人たち

今度は、ちゃんと対応して見せる

テラスちゃんのように…勇気を…出すんだ……!


「それでも、前に出て戦った人ではなく、あなたたちにお金を寄越せ、と」

「大モンスター討伐の報奨金は、ギルドで山分けがルールだろう?」

「……」

確かにそういうルールはある

金額が大きい場合は、揉め事が起こらないように

多少の働きに違いがあっても、ギルド内で平等に分配するべし、と

彼らは、おじさん、ヘルメスさん、そして籍が残ってた私の報奨金を

自分たちに分けろと言っているのだ


「けど、そのルールを、働きがゼロのメンバーに適用するのはおかしいですよ」

「はー?そんなん知らねーよ!そんな事、契約には書いてないからなぁ!」

…しかし、これは困った

折れるつもりは無いけれど、向こうは都合の悪い事は全部聞く耳持たずで

ひたすら持久戦をする構えのようだ


(なー、なんやねん、あいつら…)

(…控えめに言ってクズだね)

(俺も銭ゲバって呼ばれてたが、ここまではしねーよ…)

(リーダーがいた頃は、まだあいつらは抑えられてたが

 もはや隠すことすらしなくなったな)

(ユピテル様…)


後ろでひそひそ話をしていた皆の中から、ヘラさんがこちらに歩み寄ってくる


「仕方ないですわね…お助けしますわ、ウズメ様」

「え…?さ、様?」

何で急に様づけに…?


「みなさま、ごきげんうるわしゅう」

私の前に立ち、ヘラさんがギルドメンバーに優雅な挨拶をする


「なんだ、ギルド経営の一つも満足にできない姫様じゃねーか!」

…あ、今、ヘラさんに青筋が立った


「ふふふ…今回、大蛇を討伐できたのは、みなさんの日頃のご活躍があっての事

 わたくし、いたく感心いたしましたわ」

「おう、そうだろうそうだろう」

おだてて帰ってもらう作戦かな…?


「…実はわたくし、スノーフォレストに嫁ぐことになっておりまして…

 一人で行くのは心寂しいと、常々思っておりました」

え…そ、そんなの初耳…?!


「そこで!そちらの、口だけは勇猛果敢なラグナロクのみなさまを

 護衛としてスカウトしようと思いますわ!」

「んな…?!」

急な話の上に、さらにおかしなことを言い出すヘラさん

…ギルドメンバーたちも、私も、後ろで見ている皆も絶句している


…ヘラさん、一体どういうつもりなんです…?

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