第50話 覚醒の天才魔法少女

「まさか教え子が、正面切って大蛇と戦ってるとは…」

「ほほほ、ウズメさん、生きていらしたのですな…大変よろしい」

「わ、私は止めようと思ったのですが、先生が行くというので仕方なく…」

出てきた全員が魔法の杖を持っている

…つまり


「『黒剣の火炎』(ブラックソードフレイム)!」

「『創世の水流』(クリエイションウオーター)!」

「『裁きの雷電』(ライデンジャッジメント)!」

すでに来る途中に準備を終えていた三人が、魔法を放つ

炎、水、雷…三種の魔法が走り、大蛇の首元で合わさり、大爆発を起こす


ドゴオオオオオオオオオ!


「やったか?!」

テラスちゃんの魔法の時よりも数倍の轟音が響き、煙が巻き上がる

これは決まった!と思われたが…


煙が晴れて首元が明らかになる

結果、首はさらに削れたものの、未だ健在


「くっ…我々の魔法が少ししか効いてない…?!」

「もっともっと連打が必要なのかしら…」

「だが、今から二発目は三十分はかかりますぞ…!」

三十分…!

テラスちゃんの魔法が、いかに破格かを思い出す

どうやってあの速度を達成しているのか…

ともかく、もう三十分耐え…


くらっ…


あ、ま…まずい…急激に息が切れて…!

深く息を吸い、乱れた呼吸を直そうとする

けれど、どんどん息が荒くなっていく


「…だ、ダメです…あと三十分、持ちそうにありません…

 逃げてください…!」

ここまで消耗するなんて…

もっと体力をつけておけば…!


「ウズメさんはどうするんや!」

「みなさんが逃げ切るまで…ここで…!」

「そんな、あかんて!一人で残ったら狙われるやん!」

「…仕方、ありません……」

どのみち、踊るのをやめたら、即、誰かが狙われるんだから…

だったら私が…


覚悟を決めた私

けれどもここになぜか、テラスちゃんを抱えて逃げていたおじさんが戻ってくる


「え…な、なんで戻って…?!

 ダメ…ですよ、逃げ…て……!」

おじさんの高速移動スキルでも、踊りを止めたらたぶん攻撃を食らってしまう

二人とも死んでしまう…!


「ごめん、お姉ちゃん…!もう少し…もう少しだけ耐えて!」

「テラスちゃん?!起きてたの…!」


地には常世の長鳴鳥

手力雄神は岩戸の脇に

天児屋命、太玉命、天香山の榊掘り

上枝に八坂瓊、五百箇の御統

中枝に八咫鏡かけ

下枝に青白、麻の幣

析りと踊りを捧げたり


「『日矛』(サンシャインスピアー)!」


今まで聞いたことのない詠唱

それが終わると共に、まばゆい光がテラスちゃんの背後に湧き上がる

十数に及ぶ、矛の形をした光

それが一斉に、大蛇の首元を狙い撃つ


グギャ…グギャアアアアアアアアアア?!


そのまま『火矛』の光版のような魔法だった

テラスちゃんは魔力を使い切って倒れてたはずじゃ…?!


いや、そういえば…あの時、洞窟内で


『雷の魔力を適切に通せば、動かせるはずだけど…

 あたしの魔力属性は、炎と光だから…』

『二重属性?!』


そう、あの時確かにテラスちゃんは、自分を二重属性だって、言っていた

…火矛連打で炎の魔力を使い果たして、慣れない急激な魔力消費で気を失ったけど

まだ光の魔力は残ってたって事…?!


「どういう事や!?テラスっちの光魔法なんて初めて見たで!」

「今まで練習はしていたけど、光の魔力が上手く出せなかったんだよ

 …でも、炎の方を使い切ったおかげか、今はすんなり出せる…!」

テラスちゃんが土壇場で覚醒した…!


「おっちゃんお願い!

 あたしを背負ったまま、円を描くようにあいつの周りを回って!」

「…なるほど、距離を詰められないようにだな!了解だ!」

詠唱するテラスちゃんを背負いながら、おじさんが高速で駆け抜ける

移動した後には光の矛が次々浮き上がり

それらが順番に大蛇に向かって突き刺さっていく


『日矛』『日矛』『日矛』『日矛』『日矛』…!

ものすごい勢いで連打されていく光の魔法


まるで逆に大蛇から、放射線状に光が広がっていくかのような…

幻想的にさえ見える光景が、そこにあった


「高速で高火力の魔法に加えて、魔力量も普通人の十…いや二十倍…?!」

「…伝説の英雄クラスじゃないかね」

「まさかこれほどとは…」

テラスちゃんの能力に驚愕する先生たち


おじさんとテラスちゃんの作り出す、その幻想的な光景は、五分ほど続き

そして…


「これであたしの全部だー!『日矛』(サンシャインスピアー)!」


炎と合わせて合計百七発の大魔法!

九十発を超えたあたりから、首の半分近くが削れ

もはやほとんど動けなくなっていた大蛇だったが…

百七でついに首がちぎれ、胴体と別れることになったのだった


「あはは…テラスちゃん、ほんとすごいや…」

私ももう全部を出し切っていた

大蛇が死亡したのを見届けると同時に、私の意識はぷつりと途絶えた

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