第49話 倒れる少女と援軍たち

はぁ…はぁ……


「『火矛』!」

五十三発目の魔法が飛び、大蛇の首に炸裂する

一般的な魔法使いが、あの規模の魔法を使うなら五発が限界だろう

文字通り、テラスちゃんの魔力量は桁違いである


しかし…流石に限界が来た


「あ…」

極度の消耗で意識を失い、屋根の上で倒れ伏す


「テラスちゃん!」

呼びかけるが返事は無い

十人分の魔力を二十分ぐらいで使い切ったのだ

何か身体に問題が起きていてもおかしくない…


ギシャアアアアアアア!


大蛇は首から血を流し、痛みに悶えている

この様子なら、半日もすれば出血死するかもしれない

…いや、流石に半日止め続けるのは、私の身体が持たない…


今だって汗でぐっしょりで、いつミスするかわからない

どうする…どうする……?!


跳ね続ける大蛇を観察する

何か突破口を…


「!?」

しまった…!

止め続ける事に必死で、全体を見ていなかった…

最初は、遠くに見える山の右側に大蛇がいたのに、今は左側に大蛇がいる

大蛇が、少しづつ移動している…!


『即興宴会芸』は、動作を完全に止められる訳じゃ無い

合間合間の、コンマ数秒の動きは許してしまう

魔法を連打してくるテラスちゃんに体当たりしようと、にじり寄ってたんだ…!


「テラスちゃん!逃げて!」

気を失っている彼女に、必死に呼びかける

しかし、目を覚ます気配は無い


助けに行きたいのに行けない…

踊りを止めたら今すぐにでも、大蛇は体当たりをするだろう

根本的に手が足りない

これが私のユニークスキルの弱点

誰かの助けが無いと成立しない


お願い…誰か…誰か来て…!

テラスちゃんを、助けて……!



祈りを捧げる私

そこに…


「こいつをくらえ!『踊る短剣』(ダンシングダガー)!」

「?!」

叫び声と共に、数十本の短剣が東の空に飛びあがる

そして、それらは落下速度を加えながら一直線に、大蛇の右目に突き刺さっていく


シャアアアアアアアア?!


大蛇は思わず、攻撃が飛んできた方を振り向く

東の高い木の上に立つ、その攻撃を繰り出した人物は…


「よっ…しばらく見ない間に、随分スケベな格好になったじゃねえか」

「ヘルメスさん?!」

薄い緑髪、常ににまりと笑みを浮かべる、痩せ気味の男性

今のラグナロクメンバーの一人

彼のユニークスキルは…短剣限定のサイコキネシス!


「…おっと、俺、そんな名前だったかな…?

 しばらく銭ゲバとしか呼ばれてなかったから、忘れちまってたぜ」

あはは…


「だろ?おっさん!」

「ああ、お前をまともに呼ぶのは、ウズメだけだな」

「おじさん!」

大蛇が振り向いた隙にだろうか

お髭のおじさんがいつの間にか西の宿屋の屋根に上り、テラスちゃんを抱えている


「天才は回収した!こっちは大丈夫だ!」

「あ、ありがとうございます!」

おじさんはテラスちゃんを抱えたまま、その場を離れて行ってくれた

よ…良かった…テラスちゃん……!


そして、痛みから持ち直した大蛇が、今度はヘルメスさんの方に突っ込もうとする

…させません!

私はくるりと回転し、その動きを止める


ビターン!


また大きな動きを封じられ、その場で跳ねる大蛇


「な、なんだ…?なぜ向かってこねーんだ…?」

不思議に思うヘルメスさん


「っていうか、何の冗談だよ、それ」

会話しながらも薄着で踊り続ける私に、奇異の目を向ける


「えっと、大変お恥ずかしいのですが…

 こうやって踊ってると、対象の動きがほぼ止まるという、私のユニークスキルです!」

「な、なるほど…やけにあいつ進んでこないなと思ったら、そのせいか」

ううう、真顔で聞かれるとやっぱり恥ずかしい…


キキィィィィィィ!


そうして踊っている私のもとに、さらに何かが突っ込んでくる

屋根付きの馬車から馬を抜いて、平べったくしたような、謎の物体

な、何これ…?!


「すまん!遅くなったわ!」

「お二人とも、ご無事ですか?!」

「!」

アマミさんと執事さんが、謎の物体からドアを開けて出てくる


「な、何ですその変な箱?!」

「『電気自動車』っていう、雷の魔力で動く乗り物や!馬車より早いんやで!」

「城が買えるくらいの、大変な貴重品なのですが…」

「そんなん言うとる場合ちゃうやろ?!」

この二人の会話は、聞いてて軽快というかなんというか…

とても楽しい感じがする


「先生方、頼みます!」

…そうだった

大蛇を見つけた時点で、アマミさんとは別れて

魔法学校へ、助けを呼びに行ってもらってたんだった…!

先生方、という事は教師の人たちが来てくれたのかな?


『電気自動車』からさらに三人が出て来る

ちょっと怖そうに見える顔の黒髪の若い男性

紫のローブの、恰幅のいいおじいさん

品のいい洋服をシンプルに着こなす、若いメガネの女性

このうち二人は、私の会ったことがある人たち


「黒イケさん!校長さん!」

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