第47話 プリンセスと元雑用係と『裸踊り』の可能性

下着…いやあれは…水着かしら…?

薄着になったウズメさんは、何かを踊りはじめる

スキルに必要な儀式なのだろうか

大蛇は、なぜかちょっかいをかけてこない

太陽に照らされ軽やかに踊る彼女は

思わず嫉妬してしまうくらい…綺麗だった


「わ、思ったより軽い…ちゃんとご飯食べてる?」

わたくしを背負った少女が、声をかけてくる

…うるさいですわね…

最近は食事が喉を通らなかったんですわ


ウズメさんが遠ざかっていく

あの踊りが見えなくなるのが残念だった

どうせ死ぬなら、あの踊りを見ながら死にたかったですわ…


…そして、いよいよ意識が朦朧として、もう駄目だと思い始めた頃


「いた、王族!」

一陣の風が舞い、見慣れた髭面の親父が駆けつける

わたくしが抜け出したのに気づいて、探しに来たのですわね

いつもはうっとうしいと思っていましたけど、この事態になるとありがたいですわ…


「おっちゃん!」

「…って、天才じゃねえか、何でお前が王族を?!」

む、どうやら二人は知り合いのよう

これは…わたくし、どうやらたばからたようですわね

ウズメさんは実は生きていて、わたくしの目をそらすために嘘の報告と骸骨を渡したと

…まあ、わたくしでもそうしますわね


「えっと、港から戻ってくる途中で大蛇を見つけて

 この人が死にかけてて、ウズメお姉ちゃんと二人で助けて

 この人を逃がすために、お姉ちゃんが大蛇を足止めしてる!」

「なんだって?!ウズメは四大スキルもまだ習得して無いだろ?!

 死ににいくようなものじゃ…!」

髭親父と天才と言われた少女が相談している

わたくしはもはや口を出すのもしんどいので、見守るほかは無いですわ


「『裸踊り』スキルを使ってるんだよ!」

「…え、いや、ウズメのスキルは『宴会芸』だったはずでは?」

「ユニークスキル『宴会芸』タイプ『裸踊り』…だって言ってた」

「ああ…正直に言うのが恥ずかしかったのか、あいつ…」

…どうやらウズメさんのユニークスキルの正式名は『裸踊り』のようですわ

い…いやいや、運命は彼女になんてスキルを渡してるんですの?!

年頃の娘が言い出せるスキルじゃないですわよ、そんなの


「と、ともかく、それで足止めできてるんだな!」

「うん!でも、いつまで持つかわかんない!」

「なら、王族は俺が城まで運ぶ!

 俺のスキル『スレイプニル』ならすぐだからな

 こいつを置いたらすぐ戻ってくる! 

 天才はウズメを助けてやってくれ!」

「わかった、おっちゃんお願い!」

相談の結果、わたくしは髭親父に乗せ換えられましたわ

彼の首元から、年を経た男性特有の匂いがする


「死ぬなよ、王族…!」

私を背に乗せて、走り出す髭親父

彼の足から背中に伝わる心地よい揺れ

…わたくし、なんだか眠くなってきましたわ


薄れゆく意識の中…幼い頃、父上におんぶしてもらった事を思い出す

ああ…何も考えず、あの時に戻れたら…


そうやって、幼いころの記憶を思い出しながら

わたくしの意識は闇に落ちた




………

……




山と形容するに相応しい身体

おとうさん、おかあさんたちでも、相打ちがやっとだった大蛇

大きさは…あの時よりは少し小さい

古本のメモに書かれたとおり、あいつは『子供』なのだろう

本当なら、古本とメモを持って行って、魔法学校の人たちと相談したかったけど

まさか帰り道で出現するなんて…!


大蛇はまた、近くの岩を飲み込む

今度は吐き出して私にぶつける気なのだろう

けれど、そうはいかない!


私はすっ、と右手を真横に動かす

すると、大蛇の動きがピタリと止まる


ゴボッ…ゴボボッ…!


吐き出すつもりの岩を飲み込んでしまい、慌てる大蛇

その結果、予定とは違い真下に岩を吐いてしまう


あいつのせいで、何かおかしな事が起こっている

そう感づいたのだろう

私に向かって巨体でぶつかってこようとする

蛇は勢いよく突進するために、首を大きく後ろへそらす


そこで、私はすすっ、と左足を上げる


大蛇の動きがまた止まり、大蛇は後ろへそらした勢いだけが止まらず

その頭を地面に打ち付けてしまう


効いている…『裸踊り』の新技が…!




『裸踊り』の新しい使い方ができないか…

初めに試したのは、五秒ごとに『裸踊り』スキルを使えるかどうかだった

スキルの踊り始めの五秒間は相手が静止する

その五秒が過ぎたら、残りの踊りを破棄して、もう一度初めからスキルを使用

これができるなら、相手をずっと静止することができる

…けど、そうは上手くいかなかった

踊り始めから、最低一分は経たないと、破棄をしても次の踊りの効果が出ないのだった


しかし、あのパプルの時の失敗から

この踊りは、中断から再開しても効果が発生する事がわかった

これが一つのヒントになった


テラスちゃん、アマミさんに手伝ってもらい、仮説を立てスキルを実験していった

そして出た結論は…

・中断からの再開は三回三秒まで

・この『裸踊り』スキルの、最初の四秒で行っていた二十の動作は特別で

 一動作につき一秒、相手を止めることができる


いつもはスキルで頭の中に浮かんだ動作を、直後に繰り返すだけだった

けれど、これを意図的に引き延ばし、特別な動作を一秒ごとに行えば

効果は二十秒にまで拡大できる


そしてさらに、それ以上の使い道も…


人間やモンスター…動くものには全て予備動作、というものが存在している

高くジャンプをするためには、まずしゃがんで足に力を溜める

そのしゃがむ最中に動きを止められたらどうなるだろうか?

ほとんどの場合、バランスを崩して転ぶ

そう、予備動作を潰されると、次の本動作がまともに行えないのだ


予備動作をタイミングよく潰すことで

一秒の停止が二秒や三秒以上のリターンになって返ってくる


二十の予備動作潰しで一分まで時間を稼げれば…

スキルを再発動し、次の一分を稼げるようになる


注意深く相手を観察しなければいけない都合上

対象の数が一体の場合にしか、無理な方法だけど…


一対一なら、私の体力が尽きるまで、動きを封じることが可能になる…!


相手の行動に合わせて即興で踊りを組み立て、動きを封じ続ける

それが、『即興宴会芸』(バンクエットアーツ・インプロヴァイゼーション)!

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