第46話 プリンセスと再会
わたくしは、髭親父の家をこっそり抜け出し
ゴールドウエストへの乗合馬車に乗り込みましたわ
ユピテル様にもう一度会いたい…
…わかってますの
もはやわたくしはユピテル様に必要のない存在
けど、嫁に出されてしまう前に、せめてもう一度だけでも…
「嬢ちゃん…顔色悪いぞ、大丈夫か?」
「え、ええ…大丈夫……大丈夫ですわ……」
御者の方にも心配される有様
…他に乗車してる方がいないのが、救いですわね
こんなみっともない顔、できれば見せたくありませんもの…
馬車の窓から空を見上げる
わたくしの心とは不釣り合いな、雲一つない、いいお天気ですわ
空から降ってくるのは、岩のようなものだけ…
「…え?」
直後、バキバキというありえない音と共に、押し込んで来た何かに馬車が壊される
何が起こったのかわからないまま、外に放り出されるわたくし
「???!!」
地面に勢いよく転がったわたくしの身体は、三回ほど地面を跳ねて停止
どういう事ですの…?!
馬車の方を向いて、状況を確認しようと…
「い…いやああああああああああああ?!」
馬車だったものは、大きな岩によって潰されていた
岩からは、潰された馬と御者の血が流れてくる
この大岩が空から降ってきて、馬車を潰した…としか思えない
けれど、あんな大きな岩がなぜ飛んで…?
…その答えはすぐ目の前にあった
「い、いや…あ、ああ…そんな……!」
我が国を混乱に陥れた、山と見まがう大きさの蛇…
大蛇は近くの岩を飲み、しばらく溜めた後、遠くに向かって吐き出している
ドゴン!
大蛇の飛ばした岩は、遠くに見える灯台に命中
灯台は折れ、そのてっぺんが見えなくなる
…まさにスケールの違うモンスターだった
(は、早く逃げないと…!)
そう思い、立ち上がろうとするが、身体が動かない
(なんで…?!)
自分の身体に目をやると、お腹のあたりが大きく傷ついていて
どくどくと血が流れ出している
自分の感覚がマヒしているのか、痛みを感じない
足に…特に左足に力が入らない
まずい、まずいまずいまずいまずい…!
大蛇がこちらを振り向く
わたくしをじっと見つめた後、大岩を飲み込み…
そしてそれを、わたくしに向かって吐き出した
勢いよく飛んでくる大岩
もはや避けることも叶わない
ああ…もはやこれまでですわね……
わたくしのような罪人には当然の末路…
ユピテル…さま……
「うあああああああっ!」
突如、街道に響く声
誰がこんなところで叫んで…?
ガシッ!
柔らかい何かが勢いよくわたくしにぶつかって…いや、掴んで…?
そして、その場を移動させられる
誰かが、動けないわたくしのために、飛び出して助けてくれた…?!
そんな…一体誰が……?
目線を上の方に動かし、わたくしを抱きしめている方を確認する
それは青髪の、胸の大きい少女で…
「ウズメさん?!」
……
地を踏み散らし
猛り勇め
「『火矛』(ファイアスピアー)!」
突然聞こえた謎の詠唱と共に、炎が巻き上がる
いくつもの、矛の形をした炎が、飛んでくる岩にぶつかっていく
炎の威力で岩は小さく砕け
わたくしをかばう形で背を向けている、ウズメさんに降り注ぐ
「い、いたたっ…!」
彼女がかばってくれたおかげで、わたくしにその小岩が当たることは無かった
「大丈夫?!ウズメお姉ちゃん!」
豪華な装飾のある杖を持った少女が駆け寄ってくる
彼女が先ほどの高速魔法を詠唱したのだろう
「大丈夫です!テラスちゃんのおかげで、ちょっと痛かっただけです!」
「もう、無茶だよ!急に飛び出して!」
「けど、おかげで助けられました!」
なん…で……?
この声、この姿、間違いなくウズメさん…
確かに生きている可能性はわずかながらにあった
で、でも、生き残ったとしても、彼女はわたくしを大変恨んでいるはず
…わたくしを助ける理由なんて……!
「まずいよ…あいつこっちをじっと見てる
なんで飛ばした岩が突然砕けたんだ、って思ってる…」
魔法使いの少女が、大蛇を睨みつけてそう話す
少女の言う通り、これはまずいですわ…
「ここから西に…赤い屋根の宿が見えますよね?
運が良ければ、馬に乗って逃げる方に、彼女を預けることができるかもです
テラスちゃんは、そこまで彼女を運んで行ってもらえますか?」
わたくしはウズメさんから少女の背中に乗せかえられる
…かなり小さなお方ですけど、大丈夫なのでしょうか…
いざとなったら、わたくしを置いてお逃げください…
「お姉ちゃんはどうするの?」
「私は……あの新技で足止めをします!」
「む、無茶だよ!まだ練習もそこそこなのに!」
「でも、やるしかありません!」
別れてから何があったのか
今のウズメさんは決意に溢れていた
「…ここを抜けたらあいつは街にたどりつきます
あの時、おとうさん、おかあさんに守られた私…
今度は私が、守る番なんです!」
「わかったよ…あたしが戻るまでなんとか持ちこたえて!」
わたくしを背に乗せて、少女は走り出す
ウズメさんがあの怪物を止めると言っていたように聞こえたのですが
聞き間違えでしょうか…
ゴ…いや、戦闘になど到底使えないようなスキル『宴会芸』でどうしようと…?!
「一発勝負…行きます!」
決意の瞳と共に、ウズメさんは勢い良く服を脱いで…
え、服を脱いで…?!
「『即興宴会芸』(バンクエットアーツ・インプロヴァイゼーション)!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます