第38話 いつか思い出す光景

はちゃめちゃビーチバレーを生き残り、次は海へ繰り出す

青い空、青い海、白い砂浜、照りつける太陽!

特売セールの時より興奮してる自分がいる

アマミさんも、大きな浮き輪を取り出し、砂浜をぴょんぴょんしている

そんな中…


「あれ?泳がないんですか?」

テラスちゃんは、大きな日よけ傘の中で寝る体制に入っていた


「海はなんか苦手で…しょっぱいし、ぬるぬるするし…」

…これは意外

彼女なら、多少の違和感などものともせずに突っ込むイメージがあったけど


「そうですかぁ…」

「川でやった泳ぎの授業では、大丈夫やったのにな」

魔法学校すごいなぁ、何でも教えてる

生徒の大半は、大金持ちや貴族が中心だから

そういう一般教育もしっかりしているのだろう

…そりゃ、ぜひにでも通いたくなる訳だよね

私は、魔法学校の推薦のためにラグナロクに入った、メガネの青年を思い出していた

上手く移転できてればいいけど…


「じゃあ、私はちょっと夕飯捕まえてきますね!」

魔法学校アナナス島宿舎で見つけた、魚を刺すモリ

節約のための自給自足を挑戦していた時期があったんだけど

海での魚取りはやったことがなかった

この機会にぜひチャレンジしておきたい


「お姉ちゃんはたくましいね…」

「新鮮な海の幸をご馳走しますよ!」

あのパプルも美味しく食べれるらしいので

テラスちゃんの魔法でこげた部分を取り除いて、調理できないか模索中だ

アマミさんに頼ってばかりもいられないし、食費が浮けば自力でなんとかなるはず…!


「あー、うちはコレでのんびりするわー」

アマミさんは、すごく大きな浮き輪を、ぽんぽん、と叩く


「ふぇー…大きな浮き輪ですね」

私の半分くらいの大きさがある…結構なお値段がしそうだ


「せやろー?昔、おとんにねだって買うてもろてん」

それを使えるのが嬉しいのか、アマミさんは浮き輪に頬ずりしてる


…なんというか、アマミさんは貴族の人にありがちな

『私は偉いんだぞー』という感じがあまり無い

失敗した時は素直に謝り、嬉しい事は素直に嬉しいと言う

学校では隠れファンとか多かったんだろうな…きっと


「ほな、ちょっと行ってくるわ」

「行ってきますねー」

「うん、あたしはここでごろごろしてるー」

笑顔で別れ、私は海の中へ…初めての素潜り漁を開始するのだった

今夜はお魚をテーブルいっぱいに並べよう!


………

……


…と、意気込んでみたのはいいけれども、実際の漁は甘くは無かった


「あーっ!また逃げられたー!」

これで二十回目の失敗

ああ、刺し逃したお魚が、遠くへ逃げ去っていく…

水中で動くのがこんなに大変だなんて

そもそもあまり潜っていられなくて、すぐ浮かんできちゃうし

これなら、釣りを練習する方が、まだ可能性があるかも…

このモリをもう少し早く動かせたら…


……あれ?


手に持ったモリを見た時に気づく

胸元に、あるべきはずのものが無いことに

見えてはいけないものが見えてしまっていることに


………

……


「きゃあああああああああああああっ!」

思わず叫び声を上げてしまう私


「!?」

砂浜でごろごろしていたテラスちゃんが、その声に気づいてがばっ、と起きる


「な、なに?!どうしたのお姉ちゃん?!」

「水着が…テラスちゃんに買ってもらった水着が流されて…」

なんという不覚…

魚取りに夢中になってるあまり、水着が無くなってるのにも気づかなかったなんて

折角のプレゼントだったのに…


ずざざざざざざざざざざざざざざざざざ


「!??」

後悔交じりに水着を探す私の元に、テラスちゃんがものすごい勢いで泳いでくる


「お姉ちゃんのピンチに、あたしが颯爽登場!」

「は、早い?!海は苦手じゃなかったんですか?!」

「お姉ちゃんの一大事だもん!苦手がどうとか言ってられないよ!」

「あ、ありがとうございます…」

テラスちゃん…私のために……


ちらっ


「まだ遠くには流れてないかもだよ!一緒に探そう!」

「は、はい!」


ちらっちらっ


テラスちゃんと一緒に、辺りを見回してみる

…残念ながら近くには浮いて無さそう

沈んでたら探すの大変だから、できれば浮いてて欲しいんだけど…


ちら…ちらっ


「…………あの…テラスちゃん?」

水着が無くなり、仕方なく手で押さえている胸を

ちらちら見つめてくるテラスちゃん


「ごめんね…お姉ちゃんの胸のサイズを見誤っていなければ…」

「あ、ああ、そういう事ですか…」

責任を感じての行為なんだ

てっきり純粋にえっち心からかと…


「ちゃんと調べるためにも、触って形を確認したいんだけど、いいかな?」

「よくないですよ?!」

いや、やっぱりえっち心だった!


「め、メジャーとかで計ったサイズでいいじゃないですか…」

「お姉ちゃんの身体の柔らかさまで全て把握したい!さわさわしたい!」

「正直すぎます!」

思考がアレだよ…思春期迎えるギリギリ手前の男子小学生だよ…

ヘンタイドスケベ男子小学生テラスちゃん…


「…いや、テラスっち、スケベもほどほどにしときやー」

「マミりん!」

ここでアマミさんが浮き輪に乗って登場

…おや、その手の物は…


「なんやウズメさんの水着が流れてきたでー」

「あ、ありがとうございます!」

なんと、あっさり見つかってしまった

よ、よかった…


「テラスっちな、誰かが落ち込みそうな時は急におどけて

 場をなごませようとしてくるんや…この子流のはげましやと思っといてや」

「ええ…そ、そうなんですか?」

テラスちゃんは赤くなって、視線を合わせようとしない

…そういう事のようだ


「も、もー!せっかくお姉ちゃんの胸がもみもみできるチャンスだったのにー!」

「いや、チャンスありませんよ?!ノーチャンスですよ?!」

さすがにあの流れで説得はされないと思う…

お腹はいきなり揉むけど、胸を揉むのは本人の許可を取ってから

というのがテラスちゃん流らしい


「つか、海苦手やなかった?」

「苦手だったけど、お姉ちゃんの水着が外れたと聞いて!」

「テラスっちホンマあれやな…」

アマミさんも少しあきれ顔


「まあ、ええわ

 折角海に入ったんやったら、ちょっとこっち来ようや」

「うん?どしたの?」

アマミさんはテラスちゃんの手を引いて、どこかに連れて行こうとする

私は二人の後を、水着を直しながらついていった


………

……


「ほへぇー…」

「わぁ…」


連れていかれたのは、二つの崖に囲まれた場所

その崖の間から見える太陽

太陽に照らされて、光る水平線

影と光のコントラストが、その場所を、とても綺麗に彩っていた


「どや、すごいやろ?」

「そうだね…なんかすごい……」

私も、思わずため息が出るほどだった


「未開の地に行かなくても、こういう見て楽しいトコは結構あるんやで」

にっこりと笑うアマミさん

彼女も陽の光を浴びて、薄く輝いていた


「なあ、冒険もええけど、またうちと旅行もしようや」

「うん…そうだね」

テラスちゃんがギルドを立ち上げて、メンバーもできて

もうすぐ二人は別々の道を行く

別れを惜しむように、アマミさんはそっとテラスちゃんの手を握り

テラスちゃんもその手を握り返した

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