第37話 平和の縦揺れ

『神の雷身にまとい…』

何かをひらめいたアマミさんは、ボールを持ちながら

例の魔法の雷玉を出した時の詠唱を始める


「同じことしようって事?

 雷の属性なら、たぶんちょっとしびれるだけで、受けられるよ!

 十分ぐらい詠唱したら別だけど、流石にタイムオーバーで反則負けにするよ!」

そう言いつつ、転んだ砂からゆっくりと起き上がるテラスちゃん

ううん、普通のルールなら、反則してるのはテラスちゃんの方なんだけど…


「そいつはこれをくろうてから言うんやな!『雷玉球』(ビリビリくんボール1号)!」

詠唱は一分以内に終了した

テラスちゃんの炎の膜とは違い、すごい薄い静電気の膜を張ったボール

それがゆっくりとテラスちゃんに近づいていく


「やっぱり威力は弱い…これなら受けられ…!」

テラスちゃんは、静電気ボールの下に入り、手ではじこうとした

…が、しかし


くるんっ


手を振った瞬間に、ボールが反転し、テラスちゃんから離れていった


「え、ちょ!?触れないんだけどこいつ!」

ふよふよと浮いているボールに手で触れようとすると、ボールが逃げ出す

普通では絶対にありえない挙動


「雷をまとわせて、『精密魔力』スキルでボールの軌道を操る…うち独自の技や!」

「ええええ、マミりんずるいー!」

「はじめたんはテラスっちやろ?!普通は魔法使うの自体違反や!」

あ、やっぱり魔法学校ルールでも禁止なんだ

…そりゃそうか、普通に危ないし……


「「ぐむむむむむー!」」

お互いに声を上げて威嚇する

魔法学校の生徒っていつもこんなことしてるんだろうか

い、いや、たぶんテラスちゃんとアマミさんだけ…そう思いたい…


「…あ、そういや、そろそろウズメさんに番回さへんとな」

「お姉ちゃん、後は任せたよ!あの雷ボールを打ち破って!」

何回も転んで砂まみれのテラスちゃんが、ぷるぷる震えながら

後を託すといった感じの演技を交えつつボールを渡してくる


「ま、待って?!超次元ビーチバレーに巻き込まないで?!」

魔法使いでない素人が参加していい戦いではないと思う


「大丈夫大丈夫、ウズメさんもスキル使っていいから」

『おねえちゃん…タカマガハラの未来を、任せたよ…』

「そんないい声で後を託さないでー?!」

独特のノリでごり押ししてくる…


「うう…じゃ、じゃあしょうがないからやります…」

「こいやー!」

両手を広げて威嚇のポーズを取るアマミさん

元気だなー…

…まあ、しょうがない、やるだけやろう


えっと、ボールを真上に投げて…

相手の陣地に入るように、このボールを叩いて…

そして…


「『宴会芸』(バンクエットアーツ)!」


スキルで相手の動きを止める!


ピタッ


「…あ」


ボールは何の障害も受けず、アマミさんの陣地に落ちてころころと転がった


「……」

すごい地味!

いや、効果的かもしれないけど、魔法の必殺ボールと比べたら

格段に盛り上がらないなぁ、これ…


「むむぅ…!けど、こっちからのボールは止められへんやろ!」

例の静電気ボールを作って、こっちに打ち込もうとしているアマミさん

…すみません、アマミさん

その打ち込みレシーブに合わせて…


「『宴会芸』(バンクエットアーツ)!」


ピタッ


「…あ」

動きを止められて、レシーブを打つこともできず、その場に落下するボール


「……」

「……」

「……」

「な、なあ、それひどいんちゃう…?」

「今更言われても?!」

魔法への対抗手段が他にない以上、こうするしかないのだ

…わ、私、悪くないですよね?!


「なあ、諦めて普通に魔法スキル無しでやろうや…テラスっち」

「で、でも、普通じゃ勝てないし…」

体格差を創意工夫でなんとかしようとする、テラスちゃんの意気込みはいいんだけど


「じゃあ、アマミさんとテラスちゃんで、まとめてかかってきてください

 こう見えて私、お姉さんですからね!魔法学校の子よりは体力あるつもりです!」

雑用で培われたスタミナをお見せしましょう!


「言うたな~、テラスっちこっちこいや」

「えー、お姉ちゃんと一緒の方がいい」

「アホやなー、対戦相手になった方が、ウズメさんの縦揺れが観察しやすいで」

「…なるほど!マミりん天才だね!」

「せやろー♪」

「もー!またそういう方向にもってこうとするー!」

ま、まあでも、そっちの方がまだ平和かな…


そうやって色々あって、ようやく私たちは、普通にビーチバレーを楽しんだのだった

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