第33話 失敗と教訓とひらめきと

「前はこのへんに固まってたんだけど…」

テラスちゃんの案内で移動した場所は、ちょっとした茂みになっていた

南国らしい鮮やかな赤や黄色の花が咲いているが

その中に、不自然に揺れている葉っぱがいくつか存在している


…討伐目標のモンスターの情報を思い出す


討伐するのはパイナップル型モンスター、パプル

文字通りパイナップルの恰好に、目と手足をくっつけただけの姿である

…イラストを見せてもらった時は、何の冗談かと思ったけど

アナナス島には立派に生息しているらしい


戦闘力は極めて低く、普段は地面に埋まって隠れている

しかし、頭の葉っぱは地面に埋まっておらず

風も無いのに不自然に揺れているので、初心者でも見つけやすい

手足を取り火であぶると、普通のパイナップルのように食べることができる

果肉は美味しく栄養価も高いが、腹に溜まりやすく沢山は食べれない


この揺れて葉っぱが全部パプルだとすると…


「うわぁ…十匹くらいいますよ…」

いかに弱くても、油断はできない数だと思う


「あたしの魔法でも数匹は残りそう…」

「なら、残った相手に私が宴会芸(裸踊り)スキルで足止めして…」

「あたしがもう一撃でいいね」

「うちはいざって時のために待機やな」

アマミさんの側には、輝く光の玉のようなものが浮いている

普通、攻撃用の魔法は、発動したらすぐ敵に向かって発射されるが

アマミさんは『精密魔力』のスキルを使い、発射を自由に遅らせることができる

要するにこれは、いつでも敵にぶつけられる雷魔法の玉、という訳だ

残念ながら一球しか維持できないらしいけど、速射性能はテラスちゃん以上である


「じゃあ…いくよ!」


裾をからげて袴とし

玉を髪に

背には矢入れ

腕には高鞆

弓弭を振り立て

剣の柄を握りしめ

地を踏み散らし

猛り勇め


「『火矛』(ファイアスピアー)!」


十数の炎の矛が浮かび上がり、そして動く葉っぱたちに向かっていく


「ビピャッ?!」

矛はモンスターたちに命中、次々と彼らを焼いていく

…しかし


「奥の方の二匹、残っとるで!」

「了解です!『宴会芸』(バンクエットアーツ)!」

テラスちゃんの魔法で燃える炎の中、アマミさんの言っているパプル二匹を目視で確認

それらをターゲットにして、スキルを発動!

踊りながらテラスちゃんの次の魔法まで、時間を稼ぐ


「…あっ!」

「?!」

炎の中を突っ切ってくる一匹のパプル

あの二匹だけじゃなかった?!


ドンッ!


あつっ!…そして痛っ!

私は、パプルの体当たりを食らいよろけてしまう


「すまん、うちの見落としや!ビリビリくん!」

ビリビリくんの合図とともに、アマミさんの雷球が

私に体当たりをしてきたパプルに突撃


「ビャピッ?!」

そのパプルは雷球によって弾け飛んだ

けど…まずい!足止めしてた二匹が動き出そうと…!


踊りを途中で中止した事は今まで無かった

再開したらどうなる?!また止まってくれるの?!

わからない…けど、やるしか!

失敗してもテラスちゃんが直接狙われないように、彼女の前に立ち

踊りの続きを再開する


バタッ!


パプルは走り出そうとしたところで、また動きを止められ、前のめりに倒れた


…いけた!

中断後の再開でも、スキルは有効だ!


「お待たせ!『火矛』!」

テラスちゃんから炎の矛が再び飛び、残る二匹を焼き焦がす


「ピギャアアアアアアアア…」

炎に包まれたパプルたちは、最後の叫び声をあげ、そして動かなくなった


「ふぅ…ちょっと危なかったね」

「ほんますまん!」

アマミさんが私に深々と頭を下げてくる


「だ、大丈夫ですよ…そんな気にしないで下さい

 私も見落としてたんですから」

ちょっと痛かったぐらいで、大した傷もできていない

学生が訓練用にしていたというのもわかる

…思ってた以上に破格なのでは…このお仕事


「それに、おかげでスキルの新発見がありました」

中断からの再開が有効とか、この状況にならなければわからなかっただろう


『オモイカネ様の導きがここに…』

…宴会芸(裸踊り)……もっと応用が効かせられるスキルかもしれない…!


「ど、どうしたんやウズメさん?何言うとるん?」

「あれは何かひらめいた時の、ウズメお姉ちゃんの決め台詞だよ」

「…ちょっと、決め台詞にしてはイマイチちゃう?」

「い、いいんですよ!私が満足してるんですからー!」

むむぅ…テラスちゃんの反応もそれなりだったし

もっとカッコいいの考えるべきかな…

憧れの冒険者になったんだし、やっぱりカッコいい決め台詞は欲しいよね!



そんな感じで、新たな発見をしつつ決め台詞が欲しくなった

一回目のパプル退治は終了したのだった

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