第34話 プリンセスと立て直し

場所はいつもの酒場兼食堂

わたくしは、ギルドメンバーが揃う日に全員を呼び寄せ、会議をすることにしましたわ

…メイド達は仕事に追われ、わたくししかいませんが…やるしかないですわ


「ようっくわかりましたわ…

 あなた方が、いかに小娘に頼りきっていたかを…!」

バン!と自分の手を、いつもは依頼書の貼ってある掲示板に叩きつける

今日、その掲示板には依頼書ではなく、小娘がいなくなったせいで赤字になった

収支報告書を貼り付けている


「小娘がいなくなったとたんに、赤字一直線ですわ!

 一人いなくなっただけでこんな状態とは…組織として、情けないと思いませんの?!」

(…いなくなった原因はお前の癖に、よく言うよ…)

「何か言いまして?!」

「い、いえ!」

王宮兵志望の少年がぶつくさ言っていたので、威圧して黙らせる


小娘を失ったのは痛い…それは思い知らされましたわ

…けれど、浮気を放っておけば、婚約もご破算になるでしょう

そうなれば、わたくしはスノーフォレストへ嫁に出されてしまう…

結局こうするしかなかったのですわ…!

痛みを伴おうとも、悪は排除しなければならない…

わたくしは正しい事をしたんですわ!


「そこで!今から雑用の当番制を導入しますわ!」

「なんですと?!

 ただでさえ勉学に邪魔な依頼を受けてるのに、その上雑用までしろと?!」

「おだまり!そういう減らず口は、もっと稼げる人間のセリフですわよ!」

こいつらのほとんどは、ラグナロクの名声を使って

美味しい仕事、ギルド優遇にありつきたいだけのやつら…

遠慮は不要ですわ!


「代用の効かない仕事は、専門家を雇い入れるしかないですわ」

特に、あんな受付なんかは、王宮暮らしのわたくしたちには無理ですわ


「ですので!みなさんにはギルド運営費として

 報酬の一割をギルドに入れてもらっていましたが、それを二割に値上げしますわ」

「待て!さすがにそいつは許せんぜ!」

今まで黙っていた銭ゲバからも非難の声が上がる

雑用の話は我慢できても、金の事は容認できない…それはまあそうでしょうとも


「わたくしも調べましたが、他のギルドは運営費を二割取ってますわ」

「…ぐっ……」

銭ゲバが声に詰まる

こいつも自分に利があるから黙って見逃してたんですわ

他と同じクズですわクズ


「…そこの髭親父」

肩肘をついてじっとこちらを見ている髭

そいつのテーブルにわたくしは近づき…


「なんだ?」

「受け取りなさい」

金貨の入った袋を、どさっ、と彼の目の前に置きましたわ


「お、おい…なんだその金…!資金がピンチだって話じゃなかったのか?!」

目の色を変える銭ゲバ


「この髭だけ、今までもギルドに報酬を二割払ってたんですわ」

「はぁ?!」

「けれど、小娘はギルドの金庫には一割だけ入れて

 残りは金庫の床下に隠してましたわ

 …『いつか返すお金』なんてメモが一緒に添えられてましたわよ」

パチってやろうかと、散々悩みましたけれど…

公平っぽい事もしておかないと、こいつらを納得させられませんわ


「はぁー…結局使ってなかったのか、あいつ……」

「ど、どういう事だよおっさん」

「個人的な恩があるって言ったろう

 その礼をしたくてな、金を渡そうとしたんだ」

「おっさん、どんだけ金持ってんだよ」

「使い道が無いだけだ…お前と違ってな」

そう言って、髭親父は静かに首を振りましたわ


「けど、あいつは直接の金なんぞ受け取ってくれなくてな

 当たり前のことをしただけだ、ってな

 ギルド運営費を普通のギルド並みに入れる、って事でようやくまとまったんだ」

「……」

「…この金はギルドのために使ってくれ」

わたくしが渡したお金を、そのまま返してくる髭親父


「ウズメの事は怒っているが、俺だってギルドを潰したい訳じゃない

 多少の足しにはなるだろう?」

「…返しませんわよ?」

「それで構わない」

…よし!よしよしよし!

返してくれるとは思いませんでしたけれど、結果として狙い通りですわ!

この雰囲気で、徴収金の値上げに文句言える奴はいないですわ!


「…ひとつ、いいか?」

…と、思ったら…まさかのユピテル様からお声が…


「は、はい!何でしょうユピテル様!」

「私はもっと多くの人を救いたいんだ

 そのために王家とのつながりを重視し、君の婚約話にも乗った」

ええ、わかっております…

こいつらやわたくしとは違い、ユピテル様は英雄となるべき高潔なお方


「報酬はともかく、雑用に手間取られるのは本意ではない」

ああ、そちらの心配でしたのね

そうですよね、ユピテル様は常に自分を磨き続けておりますもの

その時間が減ってしまうのは由々しき事態ですよね


「大丈夫ですわ。雑用の当番制は、報酬が少ない冒険者に限ってますもの」

「…そうか、なら問題は無いか」

すっ、と目を伏せ、話は終わりと瞑想に入るユピテル様

…ああ、静かなるユピテル様も素敵ですわ…


「いや待ってください!そいつは不公平でしょう!」

「…待て、それじゃあ俺は、ユピテルと共に冒険に出れる機会が減ってしまう」

「そんな事知ったこっちゃありませんわ

 ユピテル様ぐらい稼げばいいんですのよ」

「こ、こいつ…!」

ユピテル様のお付きとその他大勢が何か文句言ってますけど

いちいち全部聞いてたら身が持ちませんわ


「はいはい、じゃあ会議は終わりですわー

 雑用のスケジュールはここに貼っておきますから

 自分の担当時間を見て、しっかり働くように!」

バンバンバン!と掲示板を三回叩いて、メモに注目を集めておく

…このままここにいたら、クレームの嵐で殺されますわ

さっさと帰って、ケーキしばいて寝ますわ!


わたくしは逃げるように食堂を後にするのでしたわ











(…潮時かね)

(ラグナロクの名前に引き付けられて来ていた仕事も、だんだん減ってきた)

(上がりも沢山取られるようになって…)

(しかも、経営者は素人の王族)

(いつ崩壊するか、時間の問題だな…)

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