第32話 昔と夢と方言令嬢

「…そういえば、アマミさんはどうして今回こちらに?」

バタバタしてて、ちゃんと聞いてなかったけど

今のうちにアマミさんの目的は、知っておいた方がいいだろう

テラスちゃんとは仲良しだけど、タカマガハラに入ってる訳ではないんだし


「いや、この島で昔、採れとったサトウキビがごっつ甘いらしくてな

 それ欲しいねん」

「へぇぇ…そんな品種が……」

「持ち帰って育てて、そのサトウキビを目玉商品にしたいんや

 まあ、半分遊び目的やから、無かったら無いでええんやけど」

「…大丈夫?マミりんのお父さん、結構過保護でしょ?」

「まあなぁ…おとんがそろそろ帰って来いってうるさいんやけど

 執事に頑張ってもらって、もうちょい伸ばしてもろとるで」

あー…執事さんが来てないのって、そういう…


「モンスターのお掃除終わったら、お姉ちゃんも一緒に遊ぼうね♪」

「あ、そういうのいいんですか?」

「学校行事で来たときは、そんな感じだったよ」

ああ、いいかも…この日差しの中、思いっきりはしゃぐのも…


「…ん?『目玉商品』ってどういう事です?」

「実はうちなー、お菓子屋さんになりたいねん

 マジカルパティシエアマミちゃんやねん」

「お菓子屋さんですか…いいですねぇ……」

人類の、特に女の子のなりたい職業3本の指に入ってると思う


「でも、魔法学校に入学してましたよね…?」

パティシエにはあまり関係ないような…?


「あー、ウズメさんには苗字言うてなかったっけ

 うちの本名、アマミ=エレクトロって言うんや」

「エレクトロ…!?」

エレクトロ家とは…

体内魔力の属性が雷で、『精密魔力』(プレサイズマジック)という

魔力を細かく操れるユニークスキルを持って生まれてくる一族

雷コンバーターが発明されるまで、雷魔力で動く古代のマジックアイテムを

使いこなすことができる一族として、様々な国で重宝されていた


「今や雷コンがあるし、うちらの出番は無くなっとるんやけど

 エレクトロ家のたしなみとして、雷魔法だけは使えるようになっとけ!

 って家からのお達しやねん」

ああ…いわゆる『当たり』なユニークスキル持ちも、別の苦労はあるんだなぁ…


「そうですか…人生って難しいですね」

「いやまあ、古代文明の調理器具、簡単に使い放題やし

 テラスっちには出会えたし…今となっては、これはこれで良かったと思うで」

「…そうですね。前向きに考えなきゃですね」

私の『宴会芸(裸踊り)』も前向きに使って…

…いや、やっぱり普段使いするのは恥ずかしいなぁ、このスキル!


「つか、あん頃のテラスっちは凄かったなぁ…切れたナイフのようやったで」

「そ、それは…周りがあたしの事子供だ、って突っかかってきたから…」

「ほほぅ…テラスちゃんの学生時代ですか?私、興味があります!」

本人はなかなか話さないだろうし、ここで聞いておきたい


「お姉ちゃん?!」

「お、気になる?話題ならなんぼでもあるで!」

アマミさんはノリノリでテラスちゃん学生時代を、話し始めてくれた


「学校の入試で、魔法で的当てせなあかんのやけど

 並べられてる的全部打ち抜いて、他の受験者の分の的が無くなって怒られた事とか…」

「だ、だって一つでいいって思わなかったんだもん!」

「授業でやるよりはるか先の魔法実験をやって、先生に怒られた事とか…

 不良を撃退するのに魔法を使って怒られた事とか…」

「…怒られてばっかりですね」

すごい…どっかでよく聞く天才エピソードがてんこ盛りだ…

本当に天才なんだなぁ…


「まあ、その不良に絡まれてたんは、うちやったんやけどな」

「おっ」

「見逃されへんかったんやろうなぁ…ホンマええ子やで」

テラスちゃんがもじもじしだした

こうやって、唐突に褒められるのは弱いらしい


「そこから、なんやかんやで仲良うなってなぁ

 自作のクッキーなんか味見してもろうて、代わりに勉強教えてもろて…」

遠い目をしながら語るアマミさん


「そのクッキー食う時にあまりに幸せそうな顔するもんやから

 クラスで腹ペコキャラにされてもうてな」

「あのクッキーが美味しかっただけだよ!

 …ま、まあ、そのおかげで、クラスのみんなの見る目が変わったんだけど」

「やっぱ美味いもんは人を幸せにする!うちの持論が証明されたで!」

「珍獣扱いになっただけな気もするけど…

 まあ、怖がられるよりはよかった、かな…?」

ああ、なんとなくわかる

テラスちゃん、ほんとうに美味しそうにご飯食べるから

みてるこっちも幸せな気分になるんだよね


「そんなマミりんの探し物のためにも

 まずはモンスターをぱぱーっと減らしちゃおう!」

テラスちゃんは水着のままいつもの杖をぶんぶん振り回して、やる気になっている


「わかりました…でも、油断しないように行きましょう」

彼女には慣れた相手だろうけど、だからこそ失敗する可能性もある


「今回はウチも手伝うで」

「いいんですか?」

「代わりに、伝説のサトウキビの情報が見つかったら、うちに教えてぇな」

「了解です」

これは…かなり早く終わるかもしれない


「よっしゃ、ほないくでー!モンスター討伐やー!」

「「おー!」」

「って、ギルドリーダーあたしなんだけど?!」

「あはは、まあ、今回くらいええやん」

「むー」

笑って誤魔化すアマミさんと

ちょっとぶーたれてるけど、しょうがないなぁ、もうって感じのテラスちゃん

…やっぱりこの二人、仲いいなぁ

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