第14話 朝風呂とこれからのこと

陽の光を感じ、暗闇から意識が戻ってくる


「ふぁ…朝の用意しなきゃ……」

今日はいつも来てくれてるあの子はお休みだから

食堂のおばちゃんのお手伝いは私がやって

それで、お掃除と昨日届いた依頼を振り分けして…


今日の予定を思い出そうとした

けれど…


「あ…」

目に入ってきたのは、見知らぬ天井、見知らぬベッド、見知らぬカーテン


「そうだった…私、もう働けないんだった」

気持ちが落ち着かない

何かやらなくて大丈夫なのか、と不安になる


あの時、テラスちゃんを送り届けて、そのまま眠ってしまった私

たぶん、テラスちゃんのお友達のお嬢様が、ベッドに寝かせてくれたのだろう

感謝しながら、辺りを見回してると…


「あ、起きたんか?」

ベッドの下の方から声がした

…下?


「テラスっちから事情は聞いたで~、大変やったみたいやな」

かけられた声の方を見ると

…なんと床に寝ているお嬢様の姿が……!


「ふああああああああ?!す、すみません、すみません!

 お嬢様を床に寝かせて自分はベッドなんて…!」

すぐさまベッドから飛び降り、ひたすら頭を下げる

見たところ、部屋には一つしかベッドが無いから、私を寝かせてくれたんだろうけど…

なんて恐れ多い事を…


「あ、いや、そんなかしこまらんでええで

 うち寝相悪くてなぁ…よくベッドから落ちるんや」

よく見ると、お嬢様の下に布団が2枚敷いてある

片方はたぶん、テラスちゃんが寝てたのだろう


「やっぱおふとんは最高やで!これ以上落ちへんからな!」 

…テラスちゃんのお友達だけあって、なかなか変わったお嬢様のようだ

見た目は薄桃髪のセミロングで、全体的にふわっとした

おっとりお嬢様って感じなんだけど


「おとんにはちゃんとベッドで寝ろって言われるけど…

 と、まあ、それは置いといて」

何かを横に置いておくジェスチャーをする


「とりあえず、湯沸かしてるから、お風呂入り~

 その後に、ご飯しようや」


そうやってお嬢様に案内されてお風呂場へ

…向かう途中の廊下にて


「あの…昨日お会いした執事さんは、どうしてますか?」

隣で屋敷内を色々案内してくれているお嬢様に聞いてみる

こういう案内なんかのお手伝いは、執事さんがやったりするんじゃ…

まさか私のせいで本当にクビに…?


「いや、あんま下着姿とか男性に見せるもんやないと思うて…」

「そうでしたー!お気遣い感謝します…」

また忘れてた…

つまり、汚れたままベッドに寝ていたという事で…

…それはまあ、お風呂入れって言われるよね…


「あ、ウズメお姉ちゃん起きた?」

湯気をまとったテラスちゃんが、タオルで顔を拭きながら右前の個室から出てきた

今出てきたところがお風呂場らしい


「うん、起きた

 …どこか、ケガした所とかなかった?」

「大丈夫だよー。ありがと、お姉ちゃん」

にっこりと微笑むテラスちゃん

朝の光に照らされ、お風呂上がりでしっとりとした彼女のその笑顔は

薄暗い中で見た時よりも三倍くらいかわいく見えた


「マミりん、なんというかこの…お風呂すっごいね!」

「せやろー?」

「マミりん?!」

「あ、言うてへんかった…うちの名前アマミって言うねん。よろしくなー」

「え、えっと…私の名前はウズメです。よろしくお願いします」

抜けていた自己紹介を簡単に添える


「まあまあ、とりあえずウズメさんもお風呂入りや~

 うちが言うのも何やけど、結構すごいで!」

「わ、わかりました」

「ウズメお姉ちゃん、また後でね~」

そうして促がされるまま、私はお風呂場に入り


…そこで驚きの光景を目にする


「ふぇー…」

古代文明によって作られたと思われるお風呂部屋

つやのある象牙色の謎素材は、清潔感に溢れ

風呂釜だけでなく、シャワーに洗面台とトイレまでついている…!


「これは、お風呂勧めたくなるよね…うん」

ちょっと狭いことが難点だけど

大浴場に引けを取らない、完成された芸術品とさえ思えた


ドキドキしながら下着を脱ぎ、中に入る

洗面台に、例の雷コンバーターが埋め込まれていて

『動かなくなったら各自で雷魔力を補充すること!』

と書かれている

…テラスちゃん、これお願いして借りてけば良かったんじゃないかな?

いや、やっぱ無理かな…なんかガチガチに埋められてるし…


石鹸で体を洗い、お湯の出るシャワーを浴び、いざ入浴

大きさ自体は、いつも入ってるお風呂ぐらいの、狭い風呂釜だけど


「ふぁぁぁぁぁぁぁっ……」

さいっこうに気持ちいい

なんかもう…とけちゃいそう

これは、お風呂が綺麗なのもあるだろうけど

冒険を終えて帰ってこれた疲労感と達成感だろう


「……」

湯につかったまま身体をずらし、天井を見上げて考えをめぐらす


何はともあれ、テラスちゃんが助かってよかった

…でも、この後は……この後は、どうしよう……

いかに理不尽でも、このままラグナロクに戻ったら、お姫様にまた処分されるだろう

それに…はっきりとわかった

もう、私の好きだった、あの頃のラグナロクには戻らないんだって

薄々は気づいていたけれど、それを認めたくなかったのだ

帰るのも大変だし、帰る意味も、もはや無い…

旅にでも出ようかな…どこか、遠くへ……


ぼーっと、そんな事を思いながら、私の意識は深い闇へ……

って、いけない!

慌てて意識を戻し、お風呂からゆっくり立ち上がる

あぶないあぶない…このままのぼせて眠ってしまうとこだったよ…

古代文明恐るべし

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