第9話 憧れとエレクトリック

「あ、あぶなかった…」

火の粉が移る前に、なんとか巣からバッグを回収


「ウズメお姉ちゃん、大丈夫?!」

「大丈夫ですよー」

「あわわ…髪の毛ちょっと焦げちゃってるじゃない」

「まあ、このくらい平気です」

「うう、綺麗なウズメお姉ちゃんの髪が…もったいない…」

なぜかテラスちゃんは、私をちょいちょい褒めてくるなぁ

嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい


「あ、そうだ。『雷コン』は入ってる?!」

本題を思い出すテラスちゃん

これで別の何かのマジックアイテムだったら目も当てられないけど…


バッグの中身は…

青い宝石のついたペンダント、ナイフ、ロープ、火口箱、たいまつに…


「大丈夫です、ありますよ!」

半透明で丸い球体

その底に、四段の円形の土台がくっついている

これは間違いなく『雷コンバーター』…!


「よしよし、順調だね!」

「後は、コレと『エレベーター』が動くかどうか…」

早速、持って行って確かめてみよう


「冒険者さん…お借りしますね」

私は、志半ばで亡くなった

元冒険者であろう骸骨に、おじぎをした


「使わせてもらいます」

テラスちゃんもおじぎをする

もし遺族がわかれば、遺品として手渡そう



扉の前に到着する

幸い、新しいモンスターがやってきたりはしていない


「…コレってどうやって使うのかな?」

『雷コン』を両手で持ってブンブン振るテラスちゃん

天才さんでも、初めてだと意外とわからないものなのかな?


「掌に魔力を集中して、水晶球の部分を触るんです

 すると、球の中に稲妻が走ります

 魔力を込め続けると、それがだんだん増えてきて

 一定以上になると雷の精霊が出現します」

「ほえー…ウズメお姉ちゃん詳しいね!」

「ラグナロクでは、初心者さんにレクチャーもしてましたから!」

テラスちゃんは、キラキラしながら雷コンの使い方を聞いていた



…昔、まだ私が小さかった頃、ラグナロクに入ってきた若い男の子の事を思い出した

あの子もテラスちゃんのように、目を輝かせながら、この説明を聞いていた


私はその時、思ったんだ

羨ましいなぁ…って

私も、コレを持って、ワクワクするような冒険に出かけたい、って


でも、私にあった才能は『宴会芸』なんて変なもので…

冒険の才能は無いからと、諦めて、違う道を進んできた


けれど、ホントは…


「おおお、出たよ!なんかピカピカしたのがいっぱい!」

思い出に浸っている間に、テラスちゃんが雷の精霊を生み出したようだった

精霊は、手のひらサイズの黄色く輝く小人のような見た目をしている

それが水晶からひいふう…五体?!


「ええええ?!普通出てくるのは一体ですよ?!

 何で五体も出てるんですか?!」

魔力量の桁が常人とは違うって事なんだろうけど…まさかこんなに……


「そ、そうなの…?!と、止めた方がいいかな…?」

「止めましょう!」

安物のマジックアイテムは、一度に魔力を入れすぎると壊れることがある


生み出された雷の精霊たちは、しばらく辺りをキョロキョロとした後

入り込める機械…『エレベーター』を見つけて、そちらへ憑りつきに行った


「入ったね…」

…やる事はやった

後はもう、壊れてない事を祈るしかない


「お願い、動いて…!」


『エレベーター』のボタンが輝きだす

『チカイッカイ、アミューズメントフロアデス』

謎の音声と共に、両開きの扉が、ゆっくりと開いていく


「…やった!」

壊れてない…!これで地上へ戻れる…!


二人で箱の中へ入る

テラスちゃんが言うには、この箱が上下移動するそうだけど…?


「これ、ボタンっぽいのが光ってたり光ってなかったりするけど

 何をどうすればいいんです?」

「たぶん、一番上の数字のボタン押せばいいんだけど…」

テラスちゃんが背伸びをして「7」のボタンを押そうとしているが

背が低いせいで届いてない

かわいい…って、そうじゃなくて


「あ、ああ、わかりました!押しますね」

光る「7」のボタンを押すと、扉がすーっと閉じる

…大丈夫かな…?緊張してきた……

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