第10話 解放の夜空

「ふー…ウズメお姉ちゃんはいいなぁ、背が高くて胸も大きくて」

「いや、私も背が高い方では無いですけどね」

そう言いつつテラスちゃんは、また胸をゆさゆさするジェスチャーをやってる…

それ恥ずかしいんだけど…


ガタン!


「ふあ?!」

入っている箱が揺れる

上に向けて動き出したという事だろうか…

上から押さえられるような、変な感覚がする

テラスちゃんはそのせいでバランスを崩し、こけそうになっている


「おっと!」

私は慌てて彼女を抱き寄せて、転ぶのを防いだ


「あ、ありがと、お姉ちゃん…」

胸に彼女のほっぺたが当たる

ぷにぷにの感触がなんだか心地いい


…ちょっとした揺れでふらつくって事は

やっぱり、相当疲れてるんだよね…


「思ったより揺れてびっくりだよ…」

私は、そう呟く彼女を労わるように、抱きしめたままそっと頭を撫でた


チーン


『サイジョウカイデス。ゴリヨウ、アリガトウゴザイマシタ』


揺れと、上からの圧迫感が止まる

ドアが開き、目の前に広がるのは…

私が落とされた穴のある、洞窟の入り口だった


「帰って…きた?」


一歩前に出る

心地よい土の感触、風の匂い

空には月が昇り、星が輝いている


「やった…やったよ!帰ってこれたよ!」

握りこぶしを作り、笑顔で飛び跳ねるテラスちゃん


「はい、お姉ちゃん、タッチ!」

「え、は…はい!」


パンッ!


「「いえーい!」」

はしゃぐ私たち

その上がったテンションで、私はテラスちゃんを持ち上げて

その場でくるくると回転した


「あははははははは」

「やった!やりましたよー!」

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる


………

……


「うっぷ…気持ち悪くなってきた」

「わ、私もです…」

はしゃぎすぎた……


「しかし…こんな洞窟の入り口に『エレベーター』があったら

 誰か気づきそうなものですけど」

「うーん…丁度、死角になっててわかりにくいのもあるけど…」

私の疑問に対して、テラスちゃんはドアの横にあるボタンを指さした

ん?これって…


「ほら、これ、ボタン壊れてるでしょ?」

「あ、ホントですね…割れてます」

何か固い物でもぶつかったのか、ドアの横のボタンが割れて、輝かなくなってる


「このボタン押せないと箱を上に呼び出せないから

 気づいた人も無視してたんじゃないかな」

「なるほど…」

使えない物をアレコレ考えてもしょうがない

今回は運よく、下からだと使えた訳だけれども


「じゃあ、あの深層まで落ちる穴は

 ボタンが壊れた後で誰かが作ったんですかね」

「かな?」

…と、色々想像を巡らせてみるけど、結論は出そうもない


「んで…抱っこしてー、お姉ちゃん」

テラスちゃんが甘い声でしがみついてきた


「もう疲れたよぉ…」

「ん、いいですよ」

やっぱり限界だったようで、緊張がほぐれた今は、声にも力が入っていない

私は彼女を背負うと、洞窟から離れるように歩き出した


「えっと…じゃあ、泊ってる宿の宿名、教えてもらえますか?」

この辺りはモンスターが出ないけれど、野宿はできれば避けたい

街までは歩いて数時間程だし、彼女も宿をとってるだろう

宿名を教えてもらえれば、彼女が眠ってしまっても送ることが…


「あ、宿には泊ってないんだ」

「え…?もしかして野宿ですか?」

「学生時代にちょっとだけ友達ができてね

 その子の別荘がこの近くにあって…それで泊めてもらってたんだ」

「なるほどぉ」

宿代も節約したかった感じがヒシヒシと…苦労してるんだなぁ


「遠くに街の明かりが見えるでしょ?

 そっちに進んでいった途中に、赤い屋根の建物があるから」

テラスちゃんが異例なだけで、魔法学校は普通、大金持ちしか行けないからなぁ

こんなところに別荘かぁ…すごい


「ウズメお姉ちゃんも、泊めてもらえるようにお願いするよ」

テラスちゃんからの申し出

お金も何も持ってないこの状況では、とてもありがたい


「うう…こんな私を色々助けてもらって、ありがとうございます」

「…助けてもらったのは、あたしの方だよ」

どっちも助けてもらった

私の方が、より大きく助けてもらったような気がするけど…

ともかく、こうして出会えた事…戻ってこれた事…


それは全て、奇跡のような出来事だった

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