第7話 ひらめきと決心のオモイカネ
「うーん…ちょっと休みましょうか」
「うぇ?大丈夫だよ、魔力はまだまだあるし!」
「体力的に、です」
私はともかく、テラスちゃんの疲労が心配だ
…ちょうど、方針が見えなくなったところだし
結局、またクッションのところまで戻って、休憩をする
「ここに来たのは何時くらいでした?」
「日が昇り始めて1時間くらい…かな」
…まずいかもしれない
たぶん今は夕方くらい…10時間は経ってる……
いかに天才でも、肉体的には小さな少女
私に会うまでは、休む暇もなくダンジョンを彷徨っていただろう
ダンジョンで肉体の疲労が続けば…
「はい、お水とクッキーですが…どうぞ」
「え、いいの?!」
自分のウエストポーチから
休憩用にと持ってきてた、クッキーと飲み物を取り出す
「ちょっと多めに持ってきてたんですよね」
お姫様たちと、一緒に食べようと思って
自信作だったんだけどなぁ…
「ありがと!いただくね!」
もりもりとクッキーを食べるテラスちゃん
…お腹空いてたんだろうなぁ
「ついでだから、持ち物、確認しておきましょうか」
さっき脱いだ服、ウエストポーチ
お水と、お水を入れてた瓶
クッキーと、クッキーを入れてた包み紙
擦り傷に効く薬草に、清涼剤になる薬草…
「…あたしは、杖以外は落としちゃって…」
「そうですか…」
その小さな身体で、必死に逃げていたんだろう
持ち物に気を付ける暇なんて、あるはずもなく…
「怖かったよね…」
彼女を正面から抱きしめ、頭を撫でる
「ふぇ?!あ、え、その…」
びっくりして、顔を赤くするテラスちゃんだったけれど
「うん……」
すぐに力を抜いて、私に身体を預けてくれた
…少しの間だけでも、彼女の安らぎになりますように…
それから数分の後
「…あのね」
私の膝枕の上で、ゆっくりと、テラスちゃんが話し始める
「さっき見た蜘蛛の足元のバッグから、雷の魔力が少しだけ感じられたんだよ」
魔法に熟練した人たちは、見ただけでその物体に宿る魔力の気配を感じられるという
「入ってそうな気がする…雷魔力コンバーター」
「!」
冒険者が持ってそうな雷属性のマジックアイテム…確かに、それしか考えられない
「あいつが離れてくれたら、こっそり取りに行けるんだけど」
「いつ離れてくれるかわかりませんね…」
巣を張っている蜘蛛が動く事はそんなに無い…と思う
「それに、私たちには時間が無い…」
食べ物、飲み物の類がほとんどない
このダンジョンの中で、モンスターと戦える体力は
後1日…いや半日もつかどうか…
「じゃあ…倒す方に、賭ける?」
「そう…ですね」
他の場所を探索するという手もあるけど
…そこでモンスターに出くわす危険も大いにある
「例の火矛、2発はいると思う…ひょっとしたら3発」
「…隠れて詠唱して1発当てて、私の『宴会芸』で止めて2発で…いけませんか?」
「気づかれなければ、それでいけると思う、けど…
3発目が必要だったら…」
ぶるっ、と彼女が震える
あの白骨を見た後なら、誰でもそうなるだろう
私が、せめてもう少し足止めできれば…
…いや、悔やむのは後回しにしよう
今はできることを探そう
急に強くはなれない
なら道具に頼る?
持っているもの、落ちているもの、周囲の環境…
何か使えそうなものは…?
……あ
「やりましょう」
…そうだ、これがある
もちろん、確実ではないけれど…賭けてみる価値はある
『オモイカネ様の導きがここに』
目をつぶり、両手を胸に当て、私はそう宣言し…
「…何それ?」
…たところで、ツッコミが入ってしまった
「え、き…決め台詞のつもり…ですけど…」
「あー…うん、その人知恵の神様だったっけ?なるほどそういう…」
テラスちゃんは指を口元に当て、考え込んで、そして…
「…うん、いいと思うよ!」
「冷静に分析しないでくださいー!」
うう…頭のいい人って、すぐ分析しだすから…!
そこはスルーしてくださいよー!
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