第4話 少女と私の自己紹介
左右の通路を確認…とりあえず、モンスターは見えない…
少し休んで大丈夫かな…?
少女を柔らかなキノコクッションに降ろし、私はその横に並んで座る
これ、ふかふかでいいなぁ…生き残れたら、持って帰ってギルドの休憩所に…
…いやいや、何考えてるんだろう、私
これ持って帰ったら、次にあそこから落ちた人が困るし
それに、さっきクビになったばかりじゃない…
「おふっ…ナニコレすごい柔らかい!持って帰ってギルドに置きたいー!」
同じこと考えてる…
ちょっとくすっ、としてしまう
「な、何かおかしかったかな…?」
少し照れながら、少女はクッションをぽふぽふしている
…ようやく落ち着いたので、彼女を少し観察する
金髪ツインテール、赤目、生育途中の幼くかわいらしい顔
きっと成長すると美人さんになると思う
豪華な装飾の杖と、それに不釣り合いな、質素な服装
スカートはちょっと短くしているが
村娘が、お小遣いの範囲で頑張りました的なファッションだ
「まあ……とりあえず自己紹介をするね」
私の視線に気づいたようで、自分から話し始めてくれた
「あたしの名はテラス!
国立魔法学校を首席で卒業した、炎の天才魔法使いであり
ギルド・タカマガハラのリーダー!だよ!」
ま、魔法学校を主席で…!?
あ…いや、確かそんな子がいるとは、ギルドメンバーに聞いた事があった…!
まさか、こんなところで会うなんて…!
とはいえ…
「タカマガハラ…」
…は、知らないなぁ…どこのギルドだろう…?
「…まだ、あたし一人しかいないけど
いずれはラグナロクをも超える最強ギルドになる予定なので、よろしく!」
あ、ソロギルドなんだ…なるほど、聞いたことが無いはずだ
「は、はい!よろしくお願いします!」
ぎゅっと彼女の手を握る
小さくてやわらかい手だけど、ペンを持つ指の先だけは固くなっていて
頑張って勉強したんだな…というのがわかった
「で、まあ、魔法学校を卒業したのはいいんだけど
前借りした学費がまだ払えてなくて…」
魔法学校は、入学試験で優秀だった生徒には、無利子で学費を貸してくれる
「ちょっと危険だけど、ダンジョンの低層でモンスターを狩っていたの
低層のモンスターなら、即撃ちの魔法で狩れるから」
ラグナロクの魔法使いさんを思い出す
あの人は、前線をしっかり構築してもらって、3分ほど時間をかけて魔法を撃っていた
「ところが、まだ発見されたなかった、転移トラップに引っかかってしまって
気づいたらこんな深層に…」
探索されつくしたと思われる低層でも、そういう事があるから
トラップ発見のスキルは誰かが持っておきたい
「…こんな事なら、担任の言う通り、魔法研究室に就職すれば良かったかなぁ…」
優秀に育った子を数年間、学費の返済で縛って研究室に入れる
国にとっても学費のない子供にとっても、悪くない話だけど…
でも、彼女はその道には進まなかった
「何で一人でギルドを立ち上げたんです?」
「そりゃ、アレだよ…知らない?
ラグナロクのリーダーは、最初、一人でギルドを作って、そこに仲間が集まったんだよ」
「あ、おとうさんから聞いたことあります!」
本人が『昔は人見知りで…ソロギルド作って一人で狩りしてた』って言ってた
「あたしの夢は、ラグナロクみたいな
強く、優しく、カッコいい人たちのギルドを作って、そこの長になる事なの!」
うう…む、胸が痛い……なんてキラキラしてるんだろう…
夢がついさっきボロボロになった人間には眩しすぎる…
「という訳で…はい、次!お姉ちゃんの番!」
「あ、は…はいっ!」
急に順番が回ってきてしまった
いやまあ、自分だけ何も言わないのはおかしいけど
…この話の流れだと、ちょっと言いにくいなぁ……
「わ、私の名前はウズメ…です。ギルド・ラグナロクの雑用係、だったんですが…」
「ラグナロク!?」
そ、そうだよね!そういう反応になるよね!
「え、ホ…ホントに?!サイン貰える?!」
「い、いや、先ほどクビになったので、サインする価値は無いと思いますよ…」
「…どういうこと?」
うう……
「…リーダーと不倫したと誤解され
婚約者のお姫様とメイドさんたちに、深層へ押し落とされました…」
改めて言うの、辛い…
「…えええ?!」
驚くテラスちゃん
憧れてもらったラグナロクが、こんな事になって、すみません…
「な、何考えてるの、そのお姫様たち!
お姉ちゃんがそんな不倫なんてする訳ないじゃない!
見る目が無いよ、その人たち!」
「……」
あ…だめだ…
出会ったばかりの彼女なのに…
信じてもらえるだけで、涙が出てきそうに…
「お姉ちゃん、大丈夫…?」
泣きそうな顔色を見て、体調が悪いと思ったんだろう
彼女は、心配して声をかけてくれた
「あ、うん、大丈夫だよ…ありがとう」
泣いてる場合じゃない
この子だけは、ちゃんと地上に帰してあげないと…!
「数年前からラグナロク、ちょっと変だな…と思ってたけど
そんな人が入ってきてたんだね…」
「はい…」
…彼女のように、一人でもラグナロクをやっていく勇気があれば
ひょっとしたら、変わったのかな…
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