第3話 裸踊りと天才魔法少女
ショックでふらつく頭を、無理やり動かす
後悔は後…後悔は後に……
一応はまだ無事なんだ…もしかしたら、どうにかなるかもしれない
周りをもっと見回してみる
私の下にはキノコ型のクッション
その場所から、左右に大きな穴が開いており、それは通路のようになっている
そこには一定間隔で、光る岩が壁に埋め込まれていて
明るさがある程度確保されている
…緊急用の入り口という予想は、当たってそうな気がしてきた
左の穴へと近づいてみる
どうか、モンスターがいませんように…!
そんな願いと共に、穴をそっとのぞ………
「うあああああああああああ?!!!」
小さな女の子が、猛烈な勢いでこちらに向かって走ってきてる
手には豪華な装飾を施された杖…たぶん魔法使いだろう
その後ろから巨大な蜘蛛のような生物が追ってきている
…出会えば、まず死は免れないという…深層のモンスター…!
「い、嫌っ…死にたくない…死にたくない…っ」
キノコクッションは結構大きいし、ひょっとしたら後ろに隠れてやり過ごせるかも…?
で、でも、追われてるあの子と一緒に隠れることは無理…!
「助け…誰か助けて…!」
「………」
おとうさん、おかあさん…どうか、見守っていてください…!
ザッ!
「?!」
私は、巨大蜘蛛と少女の間に割り込み、そして叫んだ
「私が注意を引きつけます!その間に逃げてください!」
「え…ええっ?!」
少女が驚きの声を上げる
まさか本当に助けが来るとは思わなかったのだろう
「5秒ほどしか持ちません!早く!」
この子が逃げるための時間を…
役立たずの私の、ユニークスキルで…!
「『宴会芸』(バンクエットアーツ)!」
手に茅纏の矛を
香具山の榊を頭飾りに
ひかげの葛を襷に
篝火を焚き桶を伏せ
岩戸の前にて踊りけり
…手をかざし、足を運び、歌を歌い
怪物の目の前で、心は恐怖に怯えながら、けれども優しく踊る
―――スキル『宴会芸』の1タイプ…『裸踊り』
踊ることで発動
踊っている間、目標の目を釘付けにできる
最初の数秒間、目標はただぼうっと、踊りを見続けてしまう
肌の露出が多いほど、ぼうっとする秒数が増える
目の前の巨大蜘蛛は、足を止め、ただぼうっとこちらを見つめている
「よし…!」
効いてる…!
高レベルモンスターに効くのかどうか、自信は無かったけど、大丈夫のようだ
『…何なんですか、このスキル?!
な、なんで私、こんな恥ずかしいスキルの才能があるんですか…!』
…なんて、神様に文句を言った事もあったけど…
でも、最後にちょっとだけ、役に立ってくれたね…
どうか、あの子だけでも逃げ延びて…
「……髮を結いあげ角髪とし」
そう思っていた私の後ろから、少女の声が聞こえてきた
……魔法の、詠唱?!
な、何で…何で逃げてないの……?!
魔法は発動まで数分はかかる…
私の『宴会芸』じゃ抑えられない…!
裾をからげて袴とし
玉を髪に
背には矢入れ
腕には高鞆
弓弭を振り立て
剣の柄を握りしめ
地を踏み散らし
猛り勇め
「『火矛』(ファイアスピアー)!」
詠唱が終わると共に、圧倒的な熱が背後に湧き上がる
そこには十数にも及ぶ、矛の形をした炎が浮かんでいた
それが一斉に、動きを止めていた巨大蜘蛛に襲い掛かる
「?!」
迫る炎に気づいた蜘蛛は、糸を吐き出しそれを防ごうとするが、もう遅かった
炎は糸を軽々と突き抜け、蜘蛛を焼き尽くす
「!!!???!!!」
しばらく炎の熱さに苦しんだ蜘蛛だったが、数秒を過ぎると動かなくなり…
後には黒焦げの巨大蜘蛛の死体だけが残った
「……」
焦げた匂いが、辺り一面に広がっている
…恐ろしく強大な炎の魔法だった
それを、こんな小さな少女が使えるなんて…
「…な、なんとかなったぁ…ありがとう、おねえちゃん」
柔らかな顔で、私に向かってお礼を言う少女
これ、助けられたのは、私の方じゃないかな…?
「あたし一人だと、詠唱完了までの時間が稼げなかったんだよ」
「あ、なるほど…そういう事でしたか……」
…なるほど、と言ってはみたけれど…驚異的な話だった
詠唱に時間がかかる魔法ほど、威力は高くなる傾向にある
あの威力なら、普通の人間なら数十分はかかるだろう
それを五秒程に短縮し、あの威力が出せるのは間違いなく天才
けれど、モンスターに見つかり、その五秒すら稼げなかったという事か…
「でももう限界…一歩も動けないー……」
そう言って、地面にへたり込む少女
全力で逃げてきたのだろう、無理もない
「えっと…ちょ、ちょっと失礼して…」
「ふあっ?!」
私は地面で休もうとしている少女を、両手で持ち上げた
「え、え?!なに?!」
「あっちにキノコのクッションがあるから、そこで休憩しましょう」
「あ…ああ、運んでくれるんだ…」
そっちの方が回復も早そうだし
「ありがと、おねえちゃん」
ちょっとはにかみながら、少女はお礼の言葉を口にした
…かわいい…
い、いやまあ…とりあえず休憩しながら、彼女と話をしてみよう
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