第20話 迫る危険

前回と大きく違って平民となりノエル様と友達になった。アスラン様と知り合い、カイトとも仲良くなった。

ミハイルはこっちに戻って死を回避。義母達も排除してお店も守った。


クロードとナタリーを失った。お父様と他人になった。



「病院で検査も受けたけど毒は認められなかったわ」


「ご主人の元に戻りたいですか?」


「ううん。あのままクロードの介護を受けるのは嫌だわ」


「彼なりの贖罪の意味もあるのでしょう」


「そんなのいらないわ。戻るなら死んだ方がマシよ」


「戻れば嫌でも死ぬのですよ。その前に黒い糸を切ってしまいなさい」


「まだ絡まってるの?」


「ええ、まだ見えますね」


コンコン とノックの音がして死神は消えた。


「あれれ・・クレアだけ? 誰かと喋ってなかった?」

スーザントメアリーだ。


「ただの独り言よ」

 

「やだ~ クレアったら年寄みたい~」


寿命の尽きかけている年寄が死神と話してたのよ。


「二人は長期休暇は恋人と過ごすのね」


 「「当り前じゃない!」」


輝いている若い二人が眩しい、羨ましいわ。



     ***



夏の長期休暇に入り荷物を纏めるとノエル様に連れられて、寮の裏口に止めてあった質素な馬車に乗せられた。

多分学園の関係者も公爵に協力しているのだろう。

多額の寄付でボロい平民寮も建て直す日が近いかもしれない。


「王都の端っこまで行くよ」そう言っておもむろに長い銀髪の鬘を取り去った。

ディーンの髪は肩までの長さで雰囲気が変わった。


「あーースッキリした」


制服姿だが、どこから見ても男の子だ。ふと、本物のノエル様に会ってみたい気がした。


「以前はね、離れた町に住んでいたんだ。依頼を引き受けて王都に来て、暮らしは楽になった」


「今は困っていることは無いの?」


「お金にさえ困らなければ生きていける。母さんも辛い仕事から解放されたからな」


「そう、なら正体がバレないように頑張りましょう」


「うん、早く王立学園に入りたい」



1時間以上馬車に揺られて、周囲には人気ひとけのない別荘のような家に着いた。

門番がいて、護衛の男たちが数人。


「静かで良いところね。庭も広くて素敵だわ」


「だろう? 俺も最初はビックリしたよ」


庭には花を植え木も剪定され、専門の庭師がいるようだ。

馬車が到着すると年配のメイドが出迎えてくれた。


エントランスに入ると綺麗な女性、ディーンのお母様が立っていた。

傍には年配の男性と若いメイドが二人、私を探るように見つめている。

公爵家からの監視人だと思われた。


「ディーン!おかえりなさい。クレアさんもいらっしゃい」婦人は暖かく迎えてくれた。


執事とメイド達はディーン親子と客の私にも慇懃無礼な態度だったが、待遇は悪くなかった。

ディーンは毎日庭で護衛達と剣術の訓練をして、昼には婦人と三人でお茶をして、新聞を読んだりゲームしたりお喋りを楽しんだ。


婦人と仲良くなり、気がつけば相談ばかりされていた。

些細な事から、未だに平民から今の生活に不慣れで、メイド達にも軽んじられている事やディーンの将来など私には答えにくい相談もあって返事に困ったが、婦人は聞いて欲しかっただけのようだ。


「クレアさんと話していると気持ちが楽になるわ。これからもディーンの事お願いね」

「出来る限り協力します」


婦人はまだ30歳前半だ、こんな場所に隔離されて女性としての幸福も奪われている。

同じ年の頃、私はクロードに抱いて貰えず淋しい思いをしていた。

でも婦人には最愛の息子のディーンがいる。2度も子どもを失った私とは違う。


好意に甘えて2週間もお世話になった。


「休みの間、ずーっとここに居ればいいのにさ」


親子で引き留めてくれたが一旦戻ることにした。

卒業すればあそこで暮らすのだから逃げずに対策を考えなければ。





暑い昼下がりに、馬車で送ってもらって私はかくれんぼ屋敷に戻ってきた。



「おかえりなさい」


「ただいま。暑いわね、死神さん」


「なぜ戻ってきたのです? ここは危険なのに」

そう言いながら男は柱時計のゼンマイを巻いた。


「だって私の家よ? 危険ならそれを排除するだけよ」


「なるほど、お手並み拝見しましょう」


強がって見せたが、死神が消えると急速に不安が押し寄せた。

彼はアスラン様と同じく『危険』と言った。


静寂の中、汗が滲んで────時計のコチコチ鳴る音だけが部屋に響いていた。



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