第19話  夏の長期休暇の予定

 あの夜からディーン様であるノエル様は私に懐いてしまった。

「クレアってなんか安心感があるな」


 目立って仲良くはしなかったが二人っきりになるとノエル様はよく喋った。

「俺は王宮騎士になって母さんを楽させたいんだ」


「王立学園で騎士科に入るのですね」

「そうだ、週末に帰宅したら剣の訓練もやっているんだ」

 嬉しそうに話すノエル様がまるで孫のようで可愛いわ。


 騎士という言葉にクロードを思い浮かべた。

 彼は今年卒業だ、王宮騎士になれるように朝の礼拝、祈りの時間に毎日祈っている。

 彼もバーンズの店の犠牲者だった。今回は幸せになって欲しい。



 もう一人の孫みたいなカイトはたまに手紙をくれた。

 ミハイルがまるで跡取り気取りだとか、どうでもいい事を書いている。


 父はミハイルを養子ではなく婿にしたいと何度も手紙を寄こしたが無視した。

 だが夏を迎える頃には諦めてミハイルを養子にした。

 彼の商才にも期待して、父は誰かに頼らないと生きていけない人だ。


 さて、私は夏の長期休暇をどうするか悩んでいた。

 2か月も休みがあって、家に戻ると厄介ごとが待ってそうな気がする。

 旅をしてみたいけど女性の一人旅は危険よね。


 放課後、図書室にいると珍しくナタリーが会いに来た。

 私が除籍されてから会っていない、利用価値が無くなると手の平返しだ。


「ねぇ、夏の休暇はどうするの? 予定ある?」


「今はまだ無いわ」


「じゃぁ うちの別荘に行きましょうよ。招待するわ」


 前回も誘ってもらったが、ヘンリー様のご友人達もいて感じが悪かった。

 男爵令嬢だからってさげすまれているのが不快で嫌だったわ。


「ナタリー私はもう平民だからお断りするわ」


「大丈夫、クロードは誘って無いわよ」

「そうじゃなくて、貴族の皆様と一緒には過ごせないわ」


「ああ、そうねクレアはもう平民よね。私のいう事を聞くわよね」

「ナタリー・・・」それがあなたの本性ね。



「クレアは私と過ごします。公爵家に招くので諦めなさい」


 離れて座っていたノエル様が立ち上がって助けてくれた。


「え?ノエル様は除籍されたのではなかったのですか」

「また戻る予定です。下がりなさい」


「くっ! 失礼致しました」ナタリーは私を睨んで出て行った。なんでよ?



「ノエル様助かりました」

「平民のクレアを誘って貴族のクズ共の餌食にしようと企んでいるんだ」


「まさか そこまでは」

「甘いな!飢えた狼共に喰われるぞ。俺の母さんみたいになりたいか?」


 2歳も年下のディーン様に説教されたわ。


「気を付けます。ノエル様・・・あんな嘘を言ってバレたらどうするんです」

「うちに来ればいい。公爵家じゃないけどな。母さんにも紹介する」


「ノエル様の事ですよ。ナタリーは勘が鋭いのです」

「バレたら彼女が消されるだけだ。クレアが一緒だって母さんに連絡しておくよ」


 さらっと怖いことを仰ったわ。私は消されないでしょうね?


「クレアは俺の協力者と言っておく。大丈夫だ俺が守るから」


 私の不安そうな顔をみてそう言ってくれたけど、まだ不安だわ。

 でも「ノエル様を信用しますわ」────こう言うしかないわね。


 お誘いは有難くお受けすることにした。2か月もお邪魔する気はない。

 少しの間滞在させて頂こう。


 後はセキュリティーがしっかりしたホテルに宿泊してもいいわね。

 こういう時にお金を使わなきゃ。



 休暇が迫って手紙が殺到していた。

 カイトにお父様。ミハイルにマックスさん。アスラン様?


 嬉しい、アスラン様が手紙を下さった。


 自宅周辺を怪しい男達がうろついているという内容だった。

 長期休暇で帰宅するのなら男爵の元に帰るほうが良い、離れで独り住まいは危険すぎるとあった。

 警護を雇うのもいいが、その時は相談に乗ると。


 空き家を見てくれていたのね。ぶっきら棒に見えるけど親切だわ。

 私が寮に入るまで夜は何度も巡回してくれて、私って結構面倒な住人だわね。

 将来を考えると護衛を雇った方がいいかもしれない。


 でもいつまでこの世界に居られるのかしら?

 死神に『愛してくれる人を探せ』って言われたけど、見つけたらどうなるんだろう。


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