第3話

 店から馬車で数分走ると自宅に到着。

 義母が来てからメイド達も入れ替わって程度が低くなった。無作法でお茶も満足に入れられない。

 義母の前夫は子爵だったのに、義妹たちの礼儀作法もお粗末だ。

 子爵亡き後に財産を食いつぶして義母は私の父の後妻に納まった。


 義妹たちは義母に似て容姿は美しく問題なかった。ハニーブロンドに青い瞳、比べて黒髪に紺色の瞳の私は見た目も中身も地味な女だ。




 前回は(現実ではと言うべきだろうが敢えて前回とする)

 クロードと結婚し、私達夫婦は離れに住み、新たにメイドを雇い父達とは接しないようにした。


 義妹たちがクロードを誘惑しようとしたのも原因だ。

 結婚後は義妹達の店への立ち入りは禁止にした。

 店の商品を自由に手に入れたくてクロードを懐柔しようとしたのだ。


 父は私に経営を丸投げした。義母と楽で贅沢な暮らしが出来れば幸せだったのだ。当初は願ってもない事だったが、大いにクロードと私の体の負担となった。




 ***



 本宅の自分の部屋に入るのは何十年ぶりだろう。

「懐かしいわね」ソファーに座ってクッションをきつく押える。

「大丈夫、クッション内のお母様の形見はまだ盗まれていないわ」


 結婚する前に受け継いだ遺産は全部盗まれ、窃盗犯は捕まらなかった。

 この頃は部屋のあちこちに隠して大丈夫と思い込んでいた。

 犯人は義母に関係した者に違いない。


「今度は好きにはさせないわ。みていなさい」


 夕飯は自室に運ばれてきた。コックだけは一流を雇っているので食事は美味しい。



 翌日、私は学園の授業を遅らせて銀行に向かった。

 お母様とお爺様から受け継いだ遺品・財産を貸金庫に預けるために。


 個人の財産なので私以外の者が開ける場合には裁判所で承認許可をもらわないといけない。これは遺言書があっても直ぐに許可は下りないのだ。


 貸金庫は中身を紛失すれば保証してくれる。前回知らなかったのが残念だ。

 預かり書と鍵を受け取って辻馬車に乗った。



 学園に着くと昼食タイムだった。ナタリーが「体調悪かったの?」と心配してくれた。「うん、朝からちょっとね」そう言いながら食堂でランチを食べると「食欲はあるのね、良かったわ」と笑われた。


 預かり書と鍵は学園の私専用のロッカーにバレないように上手く隠しておいた。

 午後からは刺繍の時間だ。ナタリーとお喋りしながら手を動かした。


「ねぇ、明日お茶会するから来てね」

「ええ、予定は無いからお邪魔するわ」


 ナタリーのお茶会には多分クロードも現れる。

 お見合いさせられるので、私はハッキリと拒絶しなければいけない。

 前回なぜかクロードは私を気に入ってくれたのだ。



 放課後、馬車が迎えに来て私は店に向かった。

 父が仕入れから戻りマックスさんと話をしている。


「ゲイリーこれは経費がかかりすぎだ」

「そんな大した金額じゃないさ」

 義母と高級宿を泊まり歩いたのだろう。


「お父様おかえりなさい。お疲れさまでした」


「ただいま!クレア留守番ありがとう」

 愛想を崩して私を抱きしめる父、私は嫌われている訳じゃない。


「お父様おかえりなさーーい!」

 三女のミリアが父に抱き着いて天使のような笑みを向ける。


『貴方は他人なのに、私だけの父なのに』と過去に嫉妬したものだ。

 62歳の私にはもうそんな感情もない。




 その日の夕飯は食堂で家族全員集まって、各々席に着いていた。

 以前の私なら断って自室で食べただろうが、居ないところで悪口を父に吹き込まれるのも面白くない。


 真っ赤な口紅の義母と目が合う。

「クレアさん、最近体調はいかがかしら?」

「悪くありませんわ」

「お姉さまって本当に病弱なの?仮病なのでは?」


「おやおや、楽しい話題じゃないね。やめておきなさい」

「ご、ごめんなさいお父様。お姉さまがお店で元気そうにお手伝いしていたから」


「あなた、セシリーは悪気はないのよ。冗談よね?」

「ええ、お母様の言う通りです!」


「わかっているよ。クレア お店の手伝いも程々に、無理はしないように」

「はい、マックスさんがいますもの。私の出る幕はありませんわ」


「お父様、お店はクレアお姉さまが後継ぎなのですか」

「そうだよミリア。クレアには相応しい婿を取って継いでもらう」


 父の返事に義母達3人の顔が歪んだ。


 前回なら私も『当然でしょう』と答えてやったと思うが、今回は曖昧に微笑んでおいた。

 お父様、娘夫婦を働かせてご自分が楽をしようなんて今回は許しませんわ。


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