第2話

「ただいま戻りました」

「お嬢さん、おかえりなさい」

 番頭のマックスさんは父の乳兄弟で、クロードは彼から商売の事を教えてもらった。


 義母達が大きな顔をしている屋敷より店の方が楽しい。

「何かお手伝いしましょうか?」

「いや構わないです。明日にはゲイリーも戻る、急ぐ仕事は無いですよ」


 お父様は義母を連れて仕入れ旅行に出かけているようだ。

 母が亡くなり淋しかったのか父はお客だった美しい未亡人のシャーリーにのめり込んでいった。

 再婚に反対していたお爺様が亡くなると直ぐにシャーリーと婚姻を結んだのだ。


「じゃぁ 売り上げのチェックでもしましょうか」


「お姉さま余計なことはしないで。無理をさせて寝込まれたら面倒だわ」


「セシリーまた来てたのね・・・」


 同い年の義妹のセシリーは非常識なおバカさんだ。

 彼女は王立学園に通って成績は最低。遊びに行ってるようなもの。

 王立学園は3年制で私の女子学園は2年制。

 私は早く卒業して店を手伝いたかったのよ。


「女子学園なんてつまらない!」と喚いてセシリーは共学の王立学園に入った。

 そこで気弱な伯爵令息を掴まえ誘惑し妊娠、卒業間近に退学した。

 その伯爵家に嫁入りして男の子を3人産み、三男をうちの養子にしたのだった。


「あら、このブローチ素敵ね。貸してね!」

「あ、ちょっと!」

 店に顔を出しても手伝うわけでもない。ああして店の品物を勝手に持ち出して、当り前だが返してくれない。

 セシリーだけじゃない、2歳下の義妹ミリアも手癖の悪い子だった。


 この義妹たちは来た当初から私の物を欲しがり、私は泣いて嫌がった。

 それで父がお店の物を上げると言ったので、好き勝手に商品を持ち出すようになったのだ。


 当然マックスさんや従業員も父に抗議したが「高級品はガラスケースの中で持ち出せない。陳列商品なら安いものだ」と義妹たちの行為を容認した。


 バーンズ商店は亡き祖父ケリー バーンズが一代で築いた雑貨店だ。

 宝石から家具、衣服、小物と何でも扱っており、王都でも有名な大店おおだなだった。

 それが徐々に傾いていったのは不甲斐ない父は勿論、3年前に我が家にやって来たあの屑共3人のせいだ。


 私はお爺様とバーンズの店が好きだった。

 だからクロードの協力を得て店を守ろうと必死に働いた。

 過労で何度も倒れて寿命を削って店を守ったのだ。

 結果、セシリーの息子夫婦に守り抜いた店を渡しただけだった。


 セシリーの息子は悪い子ではなかったが、結婚した嫁が強欲で気の強い女性だった。

 孫にあたる子たちも嫁に似て、人を見下すような子ども達に育った。


 思い出せばクロードに申し訳なくて胸が痛む。

 子どもは2回妊娠したが2回とも無理が祟って流産し、子どもは望めなくなった。


 2度目の流産の後からクロードとベッドを共にする事が無くなっていった。

 まだ男盛りだった彼がどう思っていたのか聞けなかったし、寡黙な彼は何も言わなかった。


「愛してほしい」と何故言えなかったのだろう。

 あの時はクロードは元の恋人と浮気していると思った。そんな情報を聞いた記憶もある。なのでそれならそれでいいと諦めていた。


 自分の幸せはお爺様の大切な店を守る事と信じていた。

 私はお爺様の怨念でバーンズの店に取り憑かれていたのかもしれない。

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