第4話

 部屋に戻ると男が居た。


「もう夢が覚める時間なのかしら?」


「お楽しみ頂いているようですね。もう少し続きをどうぞ」


「こんなの意味があるの?何をさせたいのかしらね」


「貴方を愛してくれる人を探してください」

 死神は静かに微笑んで消え去った。


「私を愛してくれる人なんているのかしら?」


 メイドに風呂の用意をさせて明日の事を考えた。

 ナタリーのお茶会が切っ掛けとなり私達は交際を始めた。

 明日若返ったクロードに会える。それは嬉しくもあり悲しくもあった。


「お嬢様、準備が出来ました」

「ご苦労様」

 メイドを下がらせて一人でバスタブに浸かる。


 老いて体を動かすのが難しくなった私をクロードは風呂に入れてくれた。

 いつも無言で優しさを行動で示してくれた。

 涙が溢れて私はバスタブの中で暫く動けなかった。




 ***





 翌日の午後にナタリーのお茶会に向かった。

 到着すると庭の東屋に案内されて、そこにはナタリーと婚約者のヘンリー、若かりし夫のクロードがいた。赤茶色の髪に優しい茶色の瞳、整った顔にスラリとした体格だがその衣服の下が筋肉質なのを知っている。思わず赤面した。


「クレアいらっしゃい、待ってたわよ。ふふ」

クロードの事を内緒にしたのを悪びれることも無くナタリーは笑う。


「紹介するわ、クロード ハリソン子爵令息よ。こちらはお話していたクレアバーンズ男爵令嬢ですわ」


「始めまして、クロード ハリソンと申します。どうぞクロードとお呼び下さい」

「クレア バーンズです。クレアとお呼び下さい」

私はカーテシーで丁寧にお辞儀をした。


「クレアこっちに来て座って。クロード様もどうぞ」

 ナタリーに誘われて4人でお茶を頂きながら世間話をし、最後にはクロードと二人で庭の散策を薦められた。ここまでは前回と同じだが、また同じ話をするつもりは無い。


 クロードにエスコートされて薔薇が咲き誇る庭園を歩いた。


「クロード様は騎士になられるのですね?」

「ええ、そのつもりです。三男ですからいずれ一人で身を立てなければなりません」

やはり夫は騎士を目指していた。


「応援しますわ。伯爵家のご令嬢との恋も」

「はぁ? 恋・・・ですか?」

「ええ、貴方様ほど立派な方ならいつか認めて頂けますわ」


「えっと・・・なにか勘違いをされていますね」

「ミモザ様ですよ?」

 クロードは思いっきり顔をしかめて首を振った。


「あの方は妄想癖があるのですよ。俺は迷惑しています」

「妄想・・・」

そんな馬鹿なと言いかけた・・・何十年もそう思い込んでいたのに。


「嘘っぱちな噂だから放置していましたが、対処した方がいいですね」

「そ、それは失礼致しました」開いた口が塞がらなかった。


「クレア嬢はバーンズ商店の跡取りなんですね」

「いいえ、どうなるか分かりません」

「は、え? そうなんですか、聞いた話と随分違いますね」

「ナタリーからですか?」

「そうです。あとクレア嬢は寡黙な方だと聞いていましたが」


 前回はお互い黙ってこの辺を歩いていたわね。

 ナタリーからクロードは物静かな女性が好きと聞いていたのだ。


「商家の娘ですもの寡黙では商売上がったりですわ」

「確かにそうですね。あははは」

 夫が声を出して笑った。本当にクロードなの?


「クロード様もお話好きでは無いとお聞きしましたわ」


「クレア嬢もお喋りな男は嫌いだと聞いていましたので東屋では控えていました。もし失礼な態度でしたら申し訳ありませんでした」


「いえ、とんでもないです。私は楽しい男性が好ましいと思っています。ナタリーは勘違いをしたのかしら」


「・・・確かに聞いていた印象とクレア嬢は違いますね」


「あの、応えにくければ結構ですが、ナタリーの婚約者のヘンリー様は彼女を幸せにしてくれそうですか」

 クロードが目を見開いた「それはどういう意味ですか」


 ヘンリーはズバリ浮気性なのだ。ナタリーはそれで一生苦労する。

「大事な親友です。幸せになって欲しいので」

「うーん、俺からヘンリーに忠告しておきます」

「お願いします」そう言って頭を下げた。


「そろそろ戻りましょうか」

「はい、今日は楽しかったです。もうお会いすることはないでしょう」

 私はそう言ってクロードの腕から手を離し戸惑うクロードと距離を置いてナタリー達の所に戻った。


「クレア、どうだった?」

「素敵なお庭でした。今日はお招き頂いて有難うございました」

「クレア? 疲れたのかしら顔色が悪いわ」

「全然大丈夫よ。また明日学園で会いましょう」


 お茶会はお開きとなり丁度迎えの馬車も来たので私はお別れの挨拶をして、切ない・・・やり切れない思いを胸に帰宅したのだった。

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