第65話、再度、求婚されたが。①


「ありがとうございました~!」


 笑顔で女性の店員さんに挨拶をされ、アリスとケルベロス達は満足そうな顔をしながら店の外に出ていき、後ろについていくようにアーノルドも楽しそうに笑みを浮かばせながらアリスの背後を歩いている。

 あの後アリスとケルベロスは同じケーキをもう一つ注文し、分けて食べる姿をアーノルドは目撃している。

 本当にあのようなモノは食べた事がなかったのだろうと感じながら、アーノルドは緩やかな顔をしているアリスたちに声をかけた。


「アリス、ケルベロス……ケーキは美味しかったか?」

「はい!満足です!しょーとけーき……次はいつ食べれるのでしょうか?」

「ビミタルアジダッタ」

「「美味しかった~!」」


 すごく満足そうな顔でそのように答える彼らに、アーノルドはぷっと吹き出しながら笑いを抑えている。

 肩を震わせながら視線をそらしているアーノルドに対し、アリスは首をかしげながら彼に視線を向けている。

 そんな二人のやり取りを見つめながら、ケルベロス達はアリスに声をかける。


「アルジ、オレタチソロソロホンニモドル」

「ケーキ美味しかった!ありがとうムカつく男~」

「美味しかったよーありがとうクソ男~」

「…………悪口に聞こえるんだが気のせいか、ん?」


 一匹はアリスに声をかけ、二匹は笑いながらアーノルドに暴言を吐いている。

 アーノルドは笑いを止め、拳を握りしめるようにしながらぶん殴りたい衝動を抑えつつ、ケルベロス達を睨みつける。

 そのことを気にしていないかのように、アリスはケルベロス達に視線を向ける。


「え、もしかして疲れたの、ケルベロス?」

「アトハモウカエルダケダロウアルジ?ナラ、ゴエイハオワリダ。マァ、ヨンデクレタラマタオレタチハアルジノマエニカケツケル」

「って言うか、邪魔しちゃいけないなーと思って!」

「二人っきりにしたほうが、都合はいいかなーと思ったの!」

「え?」

「トイウコトダカラ、ナニカアレバマタカケルケル、アルジ」


 そのように言いながら、三匹は笑顔で消えていき、残されたのはアーノルドとアリスの二人のみだ。

 呆然としながらアリスはアーノルドに視線を向けた後、少し顔を赤く染めながら思わず唇を噛みしめるという行動を取ってしまったのである。

 まさかケルベロス達にそのような言葉を言われると思っていなかったらしく、アーノルドもその言葉を聞いて驚いていた。

 目を見開き、その場で固まっているアーノルドの事など知らず、ケルベロス達が消えて行った後も、お互い言葉が出ずに数十秒。


「…………アリス」

「は、はい!!」

「……とりあえず帰るか。二人を待たせているからな」

「は、い……そう、ですね」


 シファとカルロスの二人を待たせているのを思い出したアリスは、アーノルドの言う通りにしながら一緒に歩き始める。

 アーノルドが前に出て歩き出し、その後ろをアリスが追いかけるように歩き出す。


 アリスはアーノルドの後姿を見ながら、歩いている。


(……二人っきり、か)


 そのように感じつつ、アリスはこれからの自分の未来の事を思い出していた。

 目の前の男は、真実を話しても、アリスの事を妻として迎える、と言う話をしていた。

 しかし、それでもアリスにとって不安でしかない。


 十八の誕生日を迎えれば、アリスの前に現れるあの子供の姿を、アリスは見なくてはならない。

 そして、どのような行動をしてくるのはわからない。

 生きているかどうかもわからない。

 死ぬのを覚悟していたはずなのに。


(……どうしてか、この人の、アーノルド様の傍に居るのが居心地がいい、なんて思ってるなんて、言えないなぁ)


 そのような事を考えてはいけない、とわかっていたはずなのに、目の前の男はアリスの心に簡単に入り込んでしまった。

 ケルベロス達もそれをわかって、アリスの前から消えたのだろう。

 微かに震える指先で、アリスはアーノルドに声をかけようとした。

 何故、手を伸ばそうとしたのか、アリスはわからない。

 無意識にそのような行動に出てしまったからである。


「あ、の……」


「――アリス」


 しかし、声を先にかけたのはアリスではなく、アーノルドだった。

 声をかけようとした矢先、アーノルドは動きを止め、アリスに向かって振り向いたので、伸ばしていた手を勢いよく引っ込める。

 アーノルドの顔が突然アリスの目の前に現れたので、驚いたアリスは顔を真っ赤にしながら、手を隠すような形を取り、つっかえるようにしながら返答する。


「は、はい!な、なんですかアーノルド様!」

「……大丈夫か?なんか引きつった顔ををしているぞ?」

「だ、大丈夫でしゅ!」

「……本当に大丈夫なのか?」


 唇がうまく動かず、同時に噛んでしまった事にアリスは余計に顔を真っ赤にさせてしまった。

 しかしアーノルドはその反応を何処か楽しむようにしながら、アリスに近づき、彼女の頭に手を伸ばす。

 大きな手がアリスの頭を優しく包み込むようにしながら、優しく撫でられていると言うのが分かる。

 驚いた顔をしつつ、アリスはアーノルドに目を向けた。


 ――どうしてそこまで、自分に優しくしてくれるのだろう?


 なんて言う言葉が頭の片隅に出てしまったが。



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