第66話、再度、求婚されたが。②
学園では、地味に生活していた。
金もないし、そもそもお金と言う存在は資料とか高いモノを買うばかりで、自分の事は後回しだった。それぐらい、調べると言う事が大好きだった。
ただ、一度だけアルバイトをしていた所に、アーノルドが来ただけだ。
ただ、聞かれた事を、アリスは返答しただけだ。
それだけなのに、地味令嬢で魔力なしと言われて学園では蔑まれていた存在を、どうして手を伸ばして、求婚するのだろうか、と。
愛されていい存在ではないと、父から見放された時から思っていたはずだったのに。
「……どうしてなのか、教えてほしいです。アーノルド様」
「何?」
「何故、私なのかと言う事を」
いつもより余所余所しい彼女ではなく、まっすぐに瞳を見つめながら、アリスはそのように答え、目の前のアーノルドに問いかける。
様子の違うアリスの姿に、アーノルドは一瞬驚いた顔を見せた後、再度笑みを見せながらアリスを見る。
「それは、俺がどうしてお前を妻にしたい、と言う事か?」
「はい……私は全てお話しました。自分の過去、『七つの大罪』の魔導書の事、そして、エルシスの事……もしかしたら私は死ぬかもしれません。元々家族には見放されているので、悲しむ人はいないと思います。『七つの大罪』の彼らも、もし私が死んでも、次の主を見つければいい話です……ただ、それだけなのに」
「それだけなのに?」
「……あなたは、私の心に入り込もうとするから、正直戸惑っています」
心の隙間から入ろうとしているアーノルドに対し、アリスはどのように対応すれば良いのかわからなくなってきていた。
きっと、これからも、アーノルドと言う存在は、アリスの心の中に入り込んでくるに違いない。
彼がどうして自分を欲するのか、何か別の目的があるのかどうかわからない。正直、アーノルドが何を考えているのかわからないのだ。
苦しそうに胸を抑えながら、アリスはアーノルドを再度見ると、いつの間にか彼の距離が近くになっていたのだ。
目の前に現れたアーノルドに驚いたアリスは一歩後ろに下がろうとしたのだが、アーノルドはそのままアリスの腕を掴む。
「俺は朝に約束したぞ、アリス」
「え……」
「――お前がちゃんと十八の誕生日を迎えられるように、俺は永遠にお前の傍に居て、お前を支え、お前を守り続けると」
確かに朝はそのように言った。
しかし、あのアーノルドでさえ、『悪魔』と言われている男でさえ、あのエルシスには勝てない。
それなのに、どうして目の前の男の手はとても大きくて、瞳からは強い意志を感じる事が出来るのだろうか?
アリスにとって、世界が否定的だった。
本来ならば、自分自身のような存在が生きていいのだろうかと思うぐらいに。
呆然としながら、アリスはアーノルドに視線を向けると、彼はそのままアリスの身体を引っ張り、自分の身体に閉じ込めるようにしながら抱きしめる。
一瞬何が起きたのか理解できないアリスだったが、すぐにアーノルドに抱きしめられる事を知ったアリスは顔を真っ赤にしながら離れようとするのだが、アーノルドの方が力が強く、離れる事が出来ない。
「ちょ、ま……あ、アーノルド様!?」
「放す気はないからな」
「く、くるし……って言うか、ど、どうして……」
「前も言ったが、お前は俺を『魅了』したんだ」
「み、みりょうって……」
『――お前は、この世界が好きか?』
出会った時、アーノルドはアリスにそのように問いかける。
だからアリスは思っていたことを言った。
『好きですよ。例え必要とされてないと言われていたとしても、それでも私を愛してくれる人たちは少なからずいますから……私は、この世界が好きです』
この世界では、家族はアリスを愛していなくても、他の人たちが手を伸ばしてくれた。
アリスにとって、彼らが『家族』だ。
だからそのように告げた。
どこが気に入ったのか、アリスにはわからない。
「私は……ただ、この世界が好きだと言っただけです」
「ああ、そうだったな」
「……それだけ、なんですよ?」
「それだけでいいんだ」
「え?」
「お前はあの時、家族の事を話した後で、笑顔で『好きです』と言ったのだから」
笑いながら答えるアーノルドの発言に、アリスはますます意味が分からなくなってしまった。
驚いた顔をしつつ、複雑な表情を見せる彼女の姿を楽しそうに笑いながら、アーノルドはアリスの頭を優しく撫でる。
「きっと、そのうちわかるさ、お前ならな」
「……うーん、わかりたいような、わかりたくないような……とりあえず、離れてほしいです。恥ずかしい」
「それはダメだ。俺はもう少しこのままが良い」
「あなたが良くても、私は嫌なんです!!」
恥ずかしそうな顔をしながら叫ぶアリスの姿に、ため息を吐きながらアリスから静かに離れる。
不服そうな顔をしているが、アリスはアーノルドが離れてくれたことで少しだけ心の余裕が出来たのである。
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