第49話、約束⑥
「大丈夫だ、たいした話はしていない」
「あ……そ、そうですか……」
にっこりとした笑顔を見せてきたアーノルドに対し、アリスは少しだけ安堵した表情を見せた。
見せたのだが。
「――『エルシス』と言う人物の件、どういう事なのか聞かせてもらえないか?」
「あう……」
一瞬で安堵した自分を悔やむアリスだった。
どうやらアリスが寝ている間にアーノルドはルシファーに会っていたらしく、彼から色々と聞いていたらしい。
詳しく、と言う話はしていないらしいが、アーノルドに『エルシス』の件について知らされた事と言う事実に、アリスは頭を抑えることしかできない。
つまり、隠し事が出来ないと言う事。
目の前のアーノルドは笑っているのだが、目が全く笑っていない事に気づいたのである。
アリスはアルド、そしてスフィアを交互にして、深く息を吐く。
「……アーノルド様、椅子がきましたら座ってください」
「ん?」
「アルド君、スフィアちゃん。これから私が隠している事を全てではないんだけど、話をさせて」
「アリスさん?」
「おねえ、ちゃん?」
「――今からお話するのは、私が『七つの大罪』の魔導書に選ばれた時から始まっていたんだ」
アリスはそのように言った後、近くに置いてある魔導書に手を伸ばし、抱きしめるようにしながら話を始めた。
『七つの大罪』の魔導書の事。
この中に罪を背負った『怪物』が眠っており、その魔導書の主人になった事。
数年前、兄であるリチャードがある『怪物』を眠りから起こしてしまった事により、二名の死者を出してしまった事。
『エルシス』と言う存在の事。
そして――
アリスが十八歳になったら、その『エルシス』が現れるという事を。
アーノルド、アルド、そしてスフィアと途中から来たカルロスは何も言わずただ静かにアリスの話を聞いてくれる。
アリスも全てを話す事になるとは思わなかったので、とにかく伝わる範囲で話をし終えた後、静かに息を吐いたアリスは締めくくる。
「……以上が私が隠していたモノ全てです」
アーノルドも、アルドも、そしてスフィアも何も言わない。
カルロスも何も言わず、静かにアリスを見つめているだけだ。
四人の視線がとても痛いと思いながら、アリスは返事を待っていたのだが、最初に口を開いたのはアーノルドだった。
「なるほど……つまりアリス、お前は十八の誕生日を迎える前に、俺の前から姿を消したい、と」
「まぁ、そうな……え、は!?」
そこまでは話していなかったので、アリスは目を見開き、驚きながらアーノルドに視線を向けるが、彼は鋭い目線でアリスを見ているのみ。
何故わかってしまったのだろうと思わず汗を流しながらアーノルドに目を向けていると、彼は何処か楽しそうに笑いながら考えている事が分かっているかのようにアリスに返事を返す。
「どうしてわかっているんだ、と言う顔をしているな、アリス?」
「い、一応は……」
「『ルシファー』から聞いた。お前が巻き込みたくないからと言う理由で」
「ルシファーさんが……で、でも……それは本当の事で……このままいたら、きっと巻き込んじゃうから……」
「巻き込むとは?」
「……エルシスは、強いです。『彼ら』も言っていた」
エルシスは、ルシファーと戦いたいと言う話をしていた。
この魔導書で一番強いのは、彼だとクロ、シロ、そしてアスモデウスが言っていた。
アリスは魔力がほぼない存在であり、ある意味足手まといだ。
そして、これは『七つの大罪』の魔導書を持つアリスと、彼らの戦いであり、アーノルドたちには全く関係のない事なのだ。
そのように伝えたいのだが、うまく言葉が出ないアリスに目を向けているアーノルドは再度、深くため息を吐きながら口を開く。
「アルド」
「はい、兄さん」
「俺が欲しいと思ったモノがあれば?」
「兄さんは欲しいモノがあったら、どんな卑怯な手を使ってでも必ず手に入れようとする性格です」
「ふぇッ!?」
突然弟であるアルドがそのように発言したので、アリスは目を見開き肩を震わせる。
何を言い出すのだこの二人はと思いながら固まっていると、アーノルドはアリスの髪の毛に指を絡ませ、唇を落とす。
「魔力がほぼないとか、狙われているとか、俺にとってはどーでも良い事だ」
「あ、アーノルド、さま……」
「……俺は初めてお前に会った時、お前に『この世界は好きか?』と言ったな」
「い、いいまし、た」
「今は?」
「え?」
「狙われているのに、もしかしたら十八歳に命を落とすかもしれないのに、それなのにお前はまだ、この世界が好きと言えるか?」
「……はい」
アーノルドとアルバイト先で出会った時、彼は『この世界は好きか?』と聞いてきたことがある。
本来ならば、嫌った方が良いのかもしれない。
この世界は魔力で成り立つ世界。
魔力がほぼないアリスにとって、この世界は住みにくい世界だ。
それでも――
「だって、大切な人たちが楽しく、穏やかに暮らしているのだから大好きです」
笑顔でそのように答えるアリスに、アーノルドは静かに笑った。
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