第47話、約束④


 簡単な、おまじないのようなモノ。

 アリスも幼い頃、仲良くしていた兄であるリチャードに向けて行っていたことを思い出す。

 あの頃は二人でよく笑いながら、楽しく過ごしていたはずなのだが。

 

 恥ずかしそうにその行動を見せてくれたスフィアに、アリスはそっと笑みを浮かばせながら彼女の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。


「……気にかけてくださり、ありがとうございます」

「ッ……」


 優しく、気にかけるように声をかけながらアリスは頭を撫でたのだが、スフィアの反応は想像していた事とは違う反応だった。

 スフィアはアリスに頭を撫でられた後、ビクッと言う強い反応を見せ、肩を震わせた後、硬直してしまう。

 動かなくなってしまったスフィアに驚いたアリスは思わずアルドに視線を向けていたのだが、彼は軽く息を吐いた後、スフィアの名前を呼ぶ。


「スフィア、アリスさんが困ってる」

「ッ……う、うん」


 スフィアが再度、アリスに目を向けて頭を下げた後、逃げるように背を向けて走りだし、アルドの後ろに隠れるようにしながらアリスを見つめなおしている。

 嫌われているのか、好まれているのか、アリスにはわからず、どうしたら良いのかわからない表情を見せる。

 そんな二人のやり取りを見ていたアルドは再度、アリスに目を向けると、視線を向けられたことに気づいたアリスは再度、身体を隠すために身を低くする。

 ふと、何かを思い出したようにアルドはアリスに問いかける。


「そう言えばアリスさん、アスモデウスさんはどうしたのですか?」

「え、アスモデウスさ……ああ、彼女ならほ――」


 『本の中に戻った』と言う話をしようとして、動きを止める。

 アーノルドには七つの大罪の話はしたのだが、アルド、スフィアの二人にはそのような話をしていない。

 動きを止めたアリスは言っていいモノなのだろうかと思いつつ、息を静かに吐くようにしながら、再度アルドの言葉に返答する。


「アスモデウスさんは……その、私が頼んだ用事に行ったので、その、えっと……今、ここにはいない、です」

「え、でもアリスさんの女中で……」

「た、大切な事だったので、彼女に頼みました……それに、元々は私、自分で元々やっていたから、出来る事は出来るので……」

「……そうなのですか?」

「そう、なのです」

「ふむ……」


 アルドはアリスのその言葉を聞いた後、何かを考えるようにしながら、顎に手を置いて考える姿を見せる。

 突然考え始めたアルドに対し、アリスとスフィアの二人は首をかしげながら彼に視線を向けると、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。


「失礼いたします、アルド様、スフィア様、そしてアリス様。アルド様のご命令で朝食をお持ちいたしました」

「ああ、済まないなカルロス……アリスさん、簡単なモノなら食べれますか?」

「え、は、はい!簡単なもので、手軽のモノなら食べれます」

「それなら三人で食べましょう。カルロス、用意をしてくれ」

「承知いたしました、アルド様。アリス様、失礼いたします」

「え、あ、ど、どうぞ……」


 アリスの部屋に入ってきたのはカルロスと、数人の女中の人たち。

 慣れているのかテキパキと小さなテーブルに三人分の朝食が簡単に用意され、匂いがアリスの鼻を刺激する。


(……そう言えば最近、新しく購入した魔導書の解読をしていた事もあって、ロクなご飯食べてなかったっけ?)


 鼻から刺激してくる美味しいご飯に少しだけ腹の虫が鳴っている事が分かったアリスは思わず涎を少し垂らしてしまった。

 アルドとスフィアは用意された椅子に座り、アリスも少しだけ恥ずかしそうにしながら用意してくれた椅子に腰をかける。

 腰をかける際に、カルロスが軽く引いてくれて、座りやしくしてくれた。


「あ、す、すみません、カルロスさん」

「いえいえ、これも仕事ですから。アリス様は何か食べられないモノはございますか?」

「す、好き嫌いは特にないんです。まぁ、ここ最近はロクな食事を取っていないから、よくリアム様……友人である第三王子によく怒られてました。痩せすぎだって」


 ハハっと笑いながら答えるアリスが第三王子のリアムの名前を出した瞬間、アルドの動きが止まる。

 スフィアは気にしていないかのように、用意された朝食を食べ始めようと、スクランブルエッグをスプーンで掬い、口の中に入れる。

 様子がおかしい事に気づいたアリスはアルドに目を向ける。


「あ、あの、アルド様?」

「……アリスさんって、第三王子であるリアム様と仲が宜しいのですか?」

「あ、あー……はい、読書仲間です。よく仲良くしていただいております」

「……第三王子であるリアム様ですか……彼もある意味変人と言われていますからね」

「へ、変人……」


 変人なのだろうか、とアルドの言葉にアリスは何も言えない。

 アリスにとって、リアムと言う存在は大切な友人の一人であり、魔力がほぼない彼女にとって優しくしてくれた相手でもある。

 図書室では魔導書の事、小説など、色々と会話をしてくれた事で、退屈ではない学園生活を送れるようになった、と言っていいほど、アリスはリアムに感謝している。


(そう言えばリアム様、あれから会っていないけど……今度、また図書室に行ってみよう)


 リアムの話をしたことで、数日会っていない事を思いだしたアリスは、次の学園に行った時に図書室を訪れようと考えるのだった。


 

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