第46話、約束③
強引さは間違いなくアーノルドに似ているとわかったアリスは青ざめた顔をしながらとりあえずゆっくりと後ろに下がり、ソファーがある場所に向かい、そこの後ろに隠れるようにしながら、顔を覗かせる。
二人が入ってきたことにより、どのように接すれば良いのかわからない。
昨日はアーノルドが居たから軽く挨拶をする事は出来たのだが、今回この場にアーノルドはいない。
不安がアリスに襲い掛かる。
アルドは周りに視線を向けた後、ソファーに隠れるようにしているアリスに視線を向ける。
「えっと、どうして隠れる必要があるんですか、アリスさん」
「え、だ、だって……その、えっと……」
「僕達はこれからこの家で暮らす事になる家族になるんですよ?そんな余所余所しくされたら、悲しくなります」
「あ、ご、ごめんなさい……け、けど、その……」
「……」
慌てるように答えているアリスに対し、アルドは静かに息を吐く。
やはり、彼女の環境が悪かったせいなのか、とアルドは考えた。
今回、スフィアと一緒にアリスの部屋を訪れたのは、様子を見る為でもあったのだが、周りを見回すとベッドを使っていないのか綺麗なままだ。
「……アリスさんはベッドをお使いになっていないのですか?」
「あ……なんか、ベッドよりソファーで寝る方が落ち着くって言うか……あ、かけるものはお借りしました!」
「……シーツは全く持って綺麗じゃないですか……これは兄さんと検討しないといけないですね……それよりアリスさん、朝食はどうしますか?」
「え、ちょ、朝食……は、別にいらな――」
「カルロス!この部屋で良いから簡単に食べれるもの持ってきて!」
「はい、アルド様」
突然大きな声で怒鳴ったアルドに驚くアリスと近くに居たスフィアが目を見開き、身体を反応させて驚いている。
そして、どうやらこの部屋に朝食を持ってくるらしく、アリスは目をぱちくりさせながら呆然としている。
「こ、断ろうとしただけなのに……」
「朝、昼、夕は必ず食べてもらわないと困りますアリスさん!昨日見て思ったのですか痩せすぎです!なんか、こう、僕でも持ち上げたら折れてしまいそうな感じに見えるんですけど!」
「え、な、なんかごめんなさい……」
「……お、にいちゃ……」
「……ごめんスフィア。ちょっと熱くなりすぎた……アリスさんもすみません」
「……だ、だいじょう、ぶ、です」
もしかして自分が変な事をしてしまったのではないだろうかとアリスは思ってしまったが、どうやら違うらしい。
元々アリスはガッツリ食べる方ではなく、細々と食べる、小食系なのである。
幼い頃よりかは食べていると思うのだが、どうやらそれでもアルドにとってはアリスは手を握っただけで骨が折れてしまうのではないだろうか、と言う体格らしい。
しかもアリスは集中して調べ物などを行うと何人も飲まず食わずになる事もある為、アルドはしっかりと食事を取ってもらいたいと思ったからこそ、執事のカルロスに叫んだのである。
スフィアは近くで立っていたので、涙目の状態だ。
アルドはそんなスフィアに対し、謝罪と同時に優しく頭を撫でながら彼女を宥めている。
「ごめん、驚いたよなスフィア」
「ん、ううん、だ、大丈夫……」
「……」
――泣くな、アリス。大丈夫だから
――うう、お、にいちゃ……
突然頭の中に流れたものは、何だったのだろうか?
既にそれは、見切っている記憶。
まだ、自分が幼かったころ、兄であるリチャードは優しくて、無視する事はなかった。
ふと、アルドとスフィアを見た時、思わずリチャードの昔のやり取りを思い出してしまったアリスは首を横に振りながら、再度二人に視線を向ける。
(……もし、父上たちが私を愛してくれたなら、何かが違っていただろうか?)
スフィアは魔力がほぼないと言われている存在らしいが、この家では迫害はされていない。
しかし、アリスは魔力がほぼないという事で、家族からの愛を得る事なく育ってしまった。
『家族』に関しての存在が、アリスにとって邪魔なモノだと今でも思っている。
(違う、私は血の繋がりのない、『家族』を見つけたんだ)
魔導書の中に封印されている彼らの存在を、アリスは『家族』として今でも思っている。そして、自分の事を大切に思ってくれている。
街の人々、ギルドの人たち、屋敷で働いている人たちも、アリスの事を無視する事なく家族以外からは愛されてきた。
だからアリスは、これで良いのだ。
(……今更、求めないさ)
しかし、それでもアリスにとって、アルドとスフィアの光景は少しうらやましかった。
もしかしたら、無意識に『嫉妬』をしていたのかもしれない。
胸が、少しだけ痛みを感じた。
「アリスさん?」
ふと、アルドとスフィアがアリスに声をかけてきた。
思わず反応してしまったアリスはその場から勢いよく立ち上がり、次の瞬間膝に痛みを感じる。
ポキっという音が響いた。
「痛っ!?」
勢いよく立ち上がったアリスは再度その場でしゃがみ込み、痛めた足を軽くさするようにしながら座り込むと、突如アリスの前に影が出来る。
顔を上げるとそこに居たのは、スフィアだった。
「だ、いじょうぶ?アリスおねえちゃん」
「え、あ……は、はい、だ、だいじょ……」
「い、いたいいたいの、とんでけー」
スフィアはそのように言いながら、アリスがさすっている膝に手を伸ばして言った。
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