第45話、約束②
静かに起き上がり、用意してくれた服に袖を通すために服を脱ぎ始める。
脱ぎ始めたのを見た二人は急いで背を向けてアリスの裸を見ないようにしたのだが、既に何年も一緒に同じ部屋で暮らしていたこともあって、アリスは全く二人に対して恥じらいと言うモノを持っていなかった。
きっと、アーノルドが居た所で彼女はその場で簡単に衣類を脱ぎ捨てるのだろうかと――思わずそんな事を考えてしまう、シロとクロだった。
素早い動きで着替え終えたアリスは簡単に髪の毛を整えた後、眼鏡をかける。
「確か、今日は学園お休みでしたよね、どうするつもりですか?」
「うーん、考えてなかったなぁ……寮に居た時はいつも部屋にこもって借りてきた本を読んだり、アルバイトに行ったりしていたけど……アルバイトの予定もないしなぁ……」
「いや、寧ろあの男はお前にアルバイトをさせるか?」
「……させないと、思うなぁ。資金どうしよう?」
「資金の件もアーノルド様が出してしまいそうですよね、なんか」
「……」
シロの発言とクロの言葉に、アリスは何も言えなくなってしまった。
二人の言う通り、アルバイトなんてしてもらえないと思うし、資金の件については間違いなくアーノルドが出してしまいそうな勢いだ。
青ざめた顔をしながらアリスが次に考えたのは。
「流石にそれはまずいから、アーノルド様に相談しよう。そして早めにここを出る!」
「快適に暮らせそうなのにか?」
「幸せにしてくれると思いますよ、彼は」
「そ、それでも……」
「――エルシスの件か?」
シロの言葉に、アリスは反応が出来ず、声も出せなかった。
ただ、彼の言う通り、アリスが一番気にしているのは、エルシスと言う存在だ。
残り一年しか残っていない彼女にとって、エルシスと言う存在は狂気でしかない。いつ、どこで、目の前に現れ、どんな行動をするのか、それが心配で仕方がない。
きっと、アーノルドや、ここの人たちを巻き込んでしまう、最悪死に至ってしまうのではないだろうかと。
昨日の出来事で、アリスは絶対に死なせたくないと思ったのだ。
幼いスフィアの事も、震える手でしっかりと、アリスに手を伸ばしてくれたことは覚えている。
覚えているからこそ、考えたくないのだ。
「……」
アリスは幼い手を思い出しながら、唇を噛みしめる。
小さな彼女を巻き込むわけにはいかないのだ。
「……もし、巻き込んで死んじゃったら、嫌じゃないか。あの時の兄上の仲間のように」
封印されていた場所に、兄であるリチャードが無意識に封印を解いてしまった事により、二人の犠牲者が出てしまった。
まだ、二人で済んでいる。
もし、アリスの前に現れて、周りの人たちが殺されてしまったら――アリスは耐える事が出来るのだろうか?
「絶対に、巻き込みたくない」
悲しそうな顔を見せながらアリスはシロに目を向けるが、シロは静かにため息を吐いた後そのまま消えていき、本の中に戻ってしまった。
突然いなくなってしまったシロにアリスは驚いたが、クロはいつものように笑いながら、アリスに目を向けていた。
「大丈夫ですよ姫様」
「クロ?」
「あのアーノルドと言う人……結構色々と考えているみたいですからねぇ」
意味深な発言したクロは再度フフっと笑いながらそのまま消えていき、本の中に戻ってしまったと言う事を確認する。
クロの言葉の意味が理解出来ないアリスは、再度首をかしげてしまったが、とりあえずまずここから出ないといけないと思ったため、入り口の扉を開け――。
「お、おはよう、おねえ、ちゃん」
すぐに扉を勢いよく閉めた。
「え、は?」
扉を開けて外に行こうとすると、何故か下の方に大きなくまのぬいぐるみを抱きしめるようにしながらアリスに声をかけてきた人物が居た。
一瞬、見間違いだろうかと思いながら扉を閉めてしまったが、再度扉をゆっくりと開けて確認した後、何故か増えていた。
「おはようございます、アリスさん」
アリスは再度、勢いよく扉を閉めた。
先ほどまで間違いなくスフィアのみだったはずなのに、何故アルドがスフィアの後ろに立ち、笑顔でアリスに挨拶をしてきたのか全く意味が分からない。
汗を流しながら、どうしたら良いのかわからないアリスだったが、次の瞬間、扉から少し離れた瞬間を狙ったのか、勢いよく扉が開き、アリスは目を見開く。
扉を勢いよく開けたのは、アルドだった。
スフィアはアルドの後ろに隠れるようにしながら、静かに笑い、アリスに手を振っている。
扉が勢いよく開いた事により、アリスは固まったままでいると、アルドは何事もなかったかのように挨拶を再度行った。
「もう一度言います、おはようございますアリスさん」
「お、おは……おはようございます、アルド様……」
「僕の事はアルドで構いません。スフィアの事も気軽に呼んであげてください」
「う、うん……わ、わたしも、アリスお姉ちゃんって、呼ぶ、ね?」
「……」
アルドを見て、アリスは思った。
(……ああ、このアルド君、間違いなくアーノルド様の弟だ)
と。
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