第43話、『傲慢』と『悪魔』②
まっすぐな、揺るぎないアーノルドの瞳を見たアスモデウスは静かに息を吐いた後、アリスの方に近づいていき、寝ている彼女の姿を覗き込む。
「むふっ……」
変な声を出しながら気持ちよさそうに眠っているアリスの姿を、アスモデウスは愛おしそうに見つめながら、彼女に近くにある魔導書に触れる。
魔導書に触れた後、何かを呟くようにしながら、アスモデウスは最後にこのように言った。
「ボクは信じていいと思うよ、『傲慢』」
最後にそのように言った瞬間、突然アスモデウスの身体と魔導書の本が光りだす、アーノルドは思わず目を瞑ってしまう。
そして次に目を開けた時にはアスモデウスの隣に一人、真っ黒い闇の世界に染まったかのような男が姿を見せ、アスモデウスの前に出ると、後ろに生えている翼を消した。
「……『色欲』、お前がそのように言うなら、私も信じよう」
「嘘は言っていないと思うからね……まぁ、ボクは気に入らないやつだけど」
「そうか……」
「ッ……」
現れた男は静かにアスモデウスからアーノルドに視線を向けた――瞬間、突然世界が変わったかのような感覚に陥る。
剣を握る事も出来ない、まるで世界が止まったかのような感覚。
今、目の前にいるこの男には絶対に勝てない――本能がそのように言っている気がした。
動かなくなってしまったアーノルドに構う事なく、男は唇を動かす。
「私は『傲慢』、ルシファーと呼ばれている……同じく、魔導書『七つの大罪』に封印されている魔物だ。そして、『
「で、この魔導書の中では一番強い男で、ボクたちのリーダー的存在だ」
「……あ、アーノルド・クライシスだ」
「『本』の中でお前たちの会話は聞いている……なるほど、クライシス家ならば、
「……?」
目の前の男は何を言っているのか、アーノルドには意味が分からない。
しかし、彼の瞳は落ち着いているように見えて、思考が全く読めないアーノルドは余計に目の前の男が怖くなってくる。
『七つの大罪』にこれほどの男が居たと考えると、あの魔導書は一体何なのだろうか?
そして、男――ルシファーと名乗った男がアーノルド家のモノならば、血を受け継ぐモノなら任せられる、と言う意味はどういう意味なのだろう?
疑問を抱いているのはアーノルドだけではなかった。
「『傲慢』、この男になら任せられるってどういう事なの?」
「……ああ、お前には話していなかったな、『色欲』……そうだな、詳しい内容を話すのは苦手だから、『憤怒』と『嫉妬』に聞いておけ。特に『嫉妬』なら詳しい」
「……ボクと『嫉妬』が仲が悪いって言うの、知ってるでしょう?」
「いや、詳しいのはあの男なのだが……そうか、仲が悪かったな」
「『傲慢』はたまにそういう所あるよね……はぁ、わかった。聞いてみるよ。嫌だけど」
嫌そうな顔をしながらそっぽを向くアスモデウスに、ルシファーも少し困った表情を見せながら、ルシファーは今度はアリスに視線を向ける。
アリスは相変わらず気づいていないのか、夢の中で良い夢を見ているのか、満足そうな顔を見せながら寝ている。
そんなアリスにルシファーは無表情のまま、彼女の髪の毛に軽く触り、そして頬を撫でる。
「……今回の『主』は、エルシスに目をつけられた。リーフィア家の血で封印が解けたように」
「……え?」
『エルシス』と言う名前を聞いたアーノルドは一体何のことなのか理解が出来ない。
しかし、ルシファーはアーノルドの疑問など気にしないかのように、彼は目の前の青年に目を向ける。
左右の違う瞳が、アーノルドを捕える。
「エルシスは私の『対』のような存在だ……十八の誕生日の日に、『
「…………聞いていない」
「ププっ、まだアリス様から信用されてないねぇ、アーノルド」
「うるさい、この淫魔」
「んだとぉ」
「……巻き込みたくなかったのかもしれないな」
笑いながらバカにしてくるアスモデウスに苛立ちを覚えながら、何が何でもこの場で斬ってやろうかと剣を握りしめ、アスモデウスも睨みつけながら拳を握りしめている。
そんな二人のやり取りに目を向けながら、ルシファーは静かに呟いた。
同時に、『
巻き込みたくないからこそ、傍に居られない。
アリスがそのように発言しているように感じたルシファーは頬を優しく撫でる。
「……お前は優しいな、小さき『
自分の事よりも、他人の事ばかり考えてしまう、主人に対し、ルシファーは再度、アーノルドに視線を向ける。
「アーノルド・クライシス」
「ッ……な、なんだ?」
「クライシス家として、そして彼女を本気で娶る気があるならば……約束してくれ」
「……何を」
「――必ず、彼女を命をかけて守る事を今この場で誓ってくれ」」
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