第37話、もしかしたら、舐めていたのかもしれない……②


 リーフィア家についてはとりあえず潰さない方向で進めてもらいたいと何とか何回か説得を試みて数分、いつの間にか隣に居たアスモデウスまで乗り気状態になってしまったので、とにかくアリスは無理やりこの話を切った。

 切って再度数分、アリスは呆然としながら目の前の屋敷に目を向けている。


「……舐めていたかもしれない、アスモデウスさん」

「うん、リーフィア家よりでかいね。流石は侯爵家」


 目の前に現れた大きな屋敷は明らかにリーフィア家とは全く違う、別格なお屋敷だった。

 正直、同じぐらいの屋敷なのだろうか、隅に置いてもらうぐらいで大丈夫なのだがと考えていたのだが、どうやらアーノルドはそれすらも肯定させてくれないらしい。

 馬車に下ろされたアリスは目の前に姿に呆然と見つめる事しかできなかった。


「おかえりなさいませ、坊っちゃん」

「ああ、ただいまカルロス。昼間連絡しておいた伯爵令嬢を連れてきた」

「噂のですね……招致いたしました。隣の方は?」

「……給仕にアスモデウスだ」


 アスモデウスはどうやら魔導書に戻る気はないらしく、相変わらずメイド姿で、笑顔で手を振っている姿をアリスは見つめるしかなかった。


「――初めまして、アリス・リーフィア様。私はカルロスと申します。坊ちゃん――アーノルド様にお仕えしております、ここの執事をしている者です」

「あ、す、すみません!突然のご訪問お許しくださいませ。アリス・リーフィアと申します。気軽にアリスと呼んでください。隣に居るのはアスモデウスさ……アスモデウスです。私の身の回りの世話をしてくれる人です」

「給仕のアスモデウスです。よろしくお願いいたします」

「ご丁寧にありがとうございます。では、アリス様、そしてアスモデウスさんで」


 執事と言うだけあって、とても丁寧にあいさつをしてくれる目の前の男性。顔つきがしっかりとしており、とても綺麗な四十代から五十代の男性だとアリスは思った。

 一方のアスモデウスも綺麗にお辞儀をした後、ジッとカルロスに視線を向けている。まるで食い入るように見ているアスモデウスに、アリスは聞こえないようにアスモデウスに声をかける。


「あ、アスモデウスさん、そんなにカルロスさん?を見つめちゃご迷惑ですよ」

「……気づきました、ご主人様?」

「え?」

「あのカルロスとご紹介された執事……かなり強いですよ。めっちゃイケメンで食べちゃおうかなーなんて思いましたけど、襲ったら多分返り討ちにあうぐらい、危ない存在かもしれないですよー」

「……た、食べちゃダメですよ、やるなら悪い人にしてください」

「えー……もったいないなぁ……」


 アスモデウスはそんな事を呟きながら再度、ジッとカルロスに視線を向けており、アスモデウスの視線に気づいたカルロスはまるでわかっていないように首をかしげながら彼女を見ていた。


「アリス、こっちだ」

「あ、は、はい!」


 カルロスの後ろの方でアーノルドが声をかける。

 本当にこのままお邪魔しても大丈夫なのだろうかと不安になりながら、アリスはアーノルドの後をついていく。

 アスモデウスもアーノルドについていくようにしながら歩きつつ、周りを警戒しているように目を鋭くしつつ。


 中に入ると、また違った世界がアリスを襲う。


「……ここ、天国ですか?」

「少なくとも俺たちはまだ死んでないぞ」

「……なんか、本当に私はココに居ていいんですか?なんか、場違いな気がして」

「お前は将来、俺の妻になる女だぞ。このぐらい慣れろ」

「了承した覚え、ないんですけど……」


 もう結婚する前提で話しているように感じながら、アリスは再度周りに視線を向ける。

 元々魔力が低いと言われた当たりから、アリスは自分の屋敷に入る事すらなく、離れの古びた場所で暮らしてきており、寮ではこのように立派な所ではなかった。

 再度、何度も周りを見つめつつ、身体を丸くするようにしながら辺りを気にしているアリスに、アーノルドは静かに見つめながら、再度呟く。


「……やっぱり潰しておくか、リーフィア家」

「え、何か言いましたか?」

「いや、何も」

「不吉な言葉を呟いたような気がしたんですけど、気のせいですか?」

「ああ、気のせいだ」


 よからぬ事を呟いたのではないだろうかと再度アーノルドに問いかけるが、アーノルドは視線をそらしながら否定していた時、アリス、アスモデウスの耳から知らない幼い声が響き渡る。



「――おかえりなさい、兄さん」



 聞き覚えのない幼い声が、アリスたちの耳に響き渡る。

 声がする方向に視線を向けると、そこには幼い少年と、幼い少女が一人ずつ、アーノルドに視線を向けていた。

 少年と少女が居る事に驚いたアリスは声も出すことが出来ずその場で固まるが、アーノルドは気にせず二人に視線を向けた。


「遅くなってすまなかったな、アルド、ただいまスフィア」

「いえ、事情は聞いておりましたから……そちらがアリスさん、ですね」

「……」

「え、え?」

「……ああ、そう言えば言っていなかったな、アリス」


 まるで、何かを思い出したかのようにアーノルドは少年と少女を手招きしてこちらに呼ぶ。

 二人はアーノルドの手招きに呼ばれるかのように彼の隣に立ち、ジッとアリスに視線を向けていた。

 そしてアーノルドは平然としながらアリスに告げる。


「弟のアルド、妹のスフィアだ」

「……弟さんと妹さんが居たんですか!?」

「半分しか血は繋がっていないがな」


 ご兄弟が居たと言う事は知らなかったので、再度アリスは驚き、その場で固まるのだった。

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