【三章完結】地味令嬢は家族に無視され、学園で蔑ろにされても、明るく前向きに生きていけます。そして何故か『悪魔』と呼ばれる男性に求婚されました。何故!?
第38話、もしかしたら、舐めていたのかもしれない……③
第38話、もしかしたら、舐めていたのかもしれない……③
そもそも、アリスは自分に求婚してきた男が何者なのかすら知らない。
彼女は本当に、家族から離れ、寮に入ってきた後、周りにいる人たち以外、何も知ろうとしなかったのだから、目の前の男が『悪魔』と言われ、学園内で恐れられている存在と言う事しか知らなかったため、アリスは弟と妹がいると言う事を知らず、目を見開いてその場で固まってしまった。
ふと、アーノルドは思い出したかのようにアリスに問いかける。
「そう言えば俺はお前に弟と妹がいると言う事を言ってなかったか?」
「……聞いて、ません」
「そうか……嫌か?」
「い、いや、別に嫌ではないですけど……」
別に嫌いではない、とアリスは言う。
しかし、正直ちょっとだけ、そういう存在が苦手なだけだったアリスは思わずアスモデウスの背中に隠れるようにしながら、様子を伺う。
視線が兄であるアーノルドではなく、アリスに向けられているのだから、正直むず痒いのだ。
そんなアリスを見たアスモデウスが静かに一礼した後、彼らに告げる。
「うちのごしゅ……いえ、お嬢様が申し訳ございません。お嬢様にも一応家族がいるのですが、下の兄弟たちとは仲が宜しくなくて……そもそも、そう言うのが苦手な性格なのです」
「ええ、兄さんから聞いております。学内では『魔力なしの地味令嬢』と言われているそうで……どのような人なのかと思っていたのですが――」
「……」
「……スフィア?」
弟であるアルドが何かを言いかけようとした時、アルドの後ろに隠れていたスフィアが突然動き出し、そのまままっすぐアリスとアスモデウスの所に近づいてきた。
アルドも、アーノルドも、どうやらスフィアがそのような行動に出るとは思わなかったららしく、二人とも目を見開いて驚いている。
スフィアはアスモデウスの前に立つと、後ろに隠れるように立っているアリスの顔を覗き込むようにしながら、小さな口を動かした。
「わ……私は、スフィア、だよ?」
「……え?」
「私もね、そのね、魔力があまりないの……初級の魔術は出来るんだけど、あとはダメなの……で、でもね、アルドお兄ちゃんも、アーノルドお兄様も、そんな私を大切に、し、してくれるの。お父様も、お母様も、優しく頭を撫でてくれるの」
「……」
突然、家族の話をされて驚いたアリスだったが、スフィアが自分と同じ魔力があまりないという事を言われ、目を見開いた。
アリスの家族は、魔力がほぼなしと言う事で、父や母、家族が私が居ないモノだと言う扱いをしたのに、スフィアは本当に大切にされているのか、暖かい目をしている。
震える身体で必死に何かを言おうとしているスフィアはそのまま、アリスとアスモデウスに向けて、小さな手を伸ばした。
「こ、ここはね……アリス、お、お姉様をいじめる人、い、いないの。お兄様も、お兄ちゃんも、き、きっと、優しくしてくれるの……す、スフィアも、アリスお姉様の事、好きに、なるの」
「え……」
「だから、大丈夫なの」
小さな手のはずなのに、とても大きく見えてしまったのは気のせいだと思いたい。ただ、アリスにとってスフィアの勇気と、歩み寄ろうとしてくれた事が本当に嬉しかった。
アリスは、アスモデウスの背から離れると、伸ばされた手を優しく、包み込むようにしながら答える。
「……私は、アリス・リーフィアです。よろしくお願いします、スフィアさん」
「す、スフィアで良いよ。将来、お兄様の奥さんになるんでしょう?なら、わ、私にとっては、お義姉様だもん」
「い、いや……まだ承諾していないんですけど……」
「はぁ……兄さん、返事もらってないんですね」
「これから攻めるつもりだから問題ない」
「いや、問題ありでしょう兄さん」
真顔で答える兄に対し、弟であるアルドは頭を抑えるような形をとりながら、ため息を吐く。
そしてそのままアルドは兄が無理やり連れてきたアリスに視線を向けた後、隣に立つアスモデウスに視線を向けると、彼女はアルドと目が合うと笑顔で笑いながら手を振ってきた。
「……兄さん、隣に立つあのメイドは悪魔か何かですか?何か邪悪な何かを感じるんですけど」
「俺ならまだいいが、アルド、お前は絶対にあの女を敵にまわすなよ。ある意味世界が終わる」
「魔力がほぼないと言う話ですけど……どうやら予想していない力を持っている、と言う事ですね」
「アリスに承諾をもらったら話す……それまでは何も言わないでくれ」
「そのつもりですよ……スフィアが自分から進んで歩み寄ったんですから……きっとアリスさんって良い人なんでしょうね」
アルドはそのように言いながらアリスとスフィアが嬉しそうに笑い合っている姿を見て、静かに笑みを零したのだった。
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