第35話、引っ越し対応、してません③
荷物を持ち、外に出てみるとそこに外で待っているアーノルドの姿があり、思わずびっくりしてしまった。
背後ではメイド服を着たアスモデウスがきゃっきゃと、嬉しそうに笑いながらアリスの背後に立っている。
「来たか、アリス」
「……待っていたの、ですか?アーノルド様」
「ああ。今から馬車に乗るが……荷物はそれだけか?」
「私が持っているモノと、後ろに居るメイド……アスモデウスさんが持っている荷物だけです」
「そうか……ソレは、お前が言っていた奴の一人か?」
「ああ……『色欲』のアスモデウスさんです。七つの大罪の一人で……今は女の人の姿にもなってますが、男にもなれる人です」
「よろしくお願いします~♡」
「……『色欲』」
アスモデウスの紹介を簡単にしたのだが、アーノルドは鋭い瞳で後ろに居るアスモデウスに視線を向けている。
視線に気づいたアスモデウスはアーノルドに目を向けた瞬間、突然鼻で笑った。
鼻で笑う行動をするとは思っていなかったアリスは思わず驚き、アスモデウスに視線を向ける。鼻で笑う、と言う事はバカにしてる、と言う事だと受け取っている。
アーノルドもアスモデウスの行動に少しだけイラついたらしい。顔が先ほど以上に険しい。
「ちょ、あ、アスモデウスさん!鼻で笑ったのはどうしてですか!?」
「べっつにー意味はないですよご主人様……ただ――」
「ただ?」
「――本当に
「……アスモデウスさん?」
さっきまで笑っていたはずなのに、アスモデウスの表情が険しくなっている。まるで最大の敵が目の前にいるかのように、アスモデウスはアーノルドに視線を向ける。
アリスですら、寒気を覚えるほど。
鋭い瞳を見せながらアスモデウスはアーノルドに目を向けているが、アーノルドは笑いながらアリスに手を伸ばし、肩に手を置く。
「守るさ」
「……口だけですか?」
「いいや」
「……ご主人様……アリス様を傷つけないと言う保証はありますか?」
「――俺はアリスを妻として、一人の女として受け入れる予定だぞ?」
「ふえッ!?」
突然大胆な言葉が出てくるとは思わなかったアリスは顔面を真っ赤に染めながらアーノルドに目を向けるが、彼の瞳にはとても強いモノを感じた。
本当に、この人は自分を求婚しているのか、と考えれば考えるほど、どうしてこんな自分なのだろうかと考えてしまう。
魔力なしの地味令嬢と言われている女に――顔面真っ赤な状態で固まっているアリスの事など知らないアーノルドとアスモデウスはお互い睨み合いが続いた後、アスモデウスは静かに息を吐く。
「……
その声は女性の声ではなく、男性の声。
体は間違いなく女性なのかもしれないが、明らかにアーノルドの前に立つアスモデウスは主人を大切にしている男の声だった。
アーノルドは何も言わず静かに頷くと、無表情になっていたアスモデウスの顔が一気に緩やかになる。固まっているアリスに手を伸ばし、頭を優しく撫でながら声をかける。
「ごめんねご主人様~、久々に巣が出ちゃったんだけど……怖かった?」
「……別に怖くなかったですよアスモデウスさん。いや、もうアスモデウスさんより私はアーノルド様の言葉を聞いて、もう何も出来なくなっちゃったと言うか……」
「いやぁん、浮気ですかご主人様~!」
「え、ちょ、あ、アスモデウスさん!?」
「……」
嬉しそうにアリスを抱きしめながら、何処か楽しそうにしているアスモデウスと、顔を真っ赤にしているアリスの姿を、アーノルドが目を向ける。
再度、アスモデウスと視線があったが、彼女は舌を出してバカにしているような顔をし、再度、アーノルドは苛立ちを覚える。
いつの間にか身体が勝手に動き、アーノルドはアリスの手を掴む。
「え、あ、あの……アーノルド様」
「……馬車が待っている、行くぞ」
「は、はい!あ、アスモデウスさんも早く!」
「はぁい……クス」
アスモデウスと放されてしまったアリスは再度声をかけると、彼女は楽しそうに笑いながらアリスとアーノルドの後をついていく。
ついていきながら、アスモデウスはアーノルドを静かに観察しながら呟いた。
「……けど、本当。もし
静かにそのように呟きながら笑っていたなど、二人は知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます