第34話、引っ越し対応、してません②
「クロ、アスモデウスさん、け、喧嘩しないでください、ね?」
「……ご主人様が言うなら、やめる」
「……姫様はおっしゃるのであれば」
二人は再度睨み合いをした後、そっぽを向いた状態になる。
アスモデウスはアリスに指示された荷物をまとめている間に、アリスも同じように荷物の確認をしている際、クロが心配そうな顔をしながら声をかけてくる。
「その、姫様。本当によろしいのですか?」
「え、何が?」
「アーノルド様、でしたっけ?あの人の所に行くという事は……確かに姫様にとっては良い話だと思いますが……」
「まぁ……うーん……心配してくれるのはわかるんだ、クロ。ありがとう」
「……私たちは姫様の意志には必ず従います。それが、契約した下僕と言うモノ」
そのように言いつつも、険しい表情をしているクロに対し、アリスは静かに息を吐く。
クロは、アリスの言葉をかなり心配している様子だと、彼女は理解している。以前の環境は彼女にとってかなり悪い所であったが、寮で何とか少しだけ環境は落ち着いたと思ったのに、また別の所に強制引っ越しなのだからクロも心配するのは間違いない。
無理やりと言っていいほどの引っ越しなのだ。
もし、アリスが傷つくような事があったら――そのように考えてしまうのかもしれない。
アリスはそのままクロに手を伸ばし、服の袖を掴んだ。
「クロ、多分大丈夫だと思う……アーノルド様は悪い人ではないって思うから」
「……根拠はどこにあるのですか?」
「まず、父上みたいな性格じゃないから」
「あー……父親を持ち掛けるんですね、姫様」
「中心がそうだったからねぇ……それに、何処か優しい目をしてたよ。兄上のような、そんな感じ」
思わずリチャードの事を思い出してしまったアリスだったが、この前アリスは彼に向かってある意味酷い言葉を投げてしまったような気がする。
しかし、それでも彼女は何も感じなかった。
今回、兄であるリチャードはアリスにとって、ある意味味方と言ってよい人物だという事は彼女も知っている。
あの時、彼は心配してくれたのだ。
『悪魔』と呼ばれているアーノルドに求婚された事を、心配して言ってくれていたのかもしれない、と。
「……まぁ、それでも別に兄には関係ない話なんだけどなぁ」
「姫様?」
「ううん、なんでもない」
引っ越しの件についてもリチャードには全く話していないので、流石に話した方が良いなと思いながらアリスは全ての荷物の確認を終える。
しかし、普通だったら多いはずなのに、アリスの荷物は本当に少ない。
「……少しだけ、増えたりはしたんだよ、クロ。そんな顔しないで?」
「……衣類とか、着替えとかも数着しかないじゃないですか。僕達が貯めて渡しているお金とか、確か少しだけあり……姫様、まさかと思いますが、調べる為に貴重な本とか魔導書とか、買ってはいけませんよね?」
「……」
クロの言葉に、アリスは何も言わない。
自分の魔導書、『七つの大罪』の文字の解読するのが楽しくなってきてしまったアリスは、『解読』と言うモノが楽しくなってきてしまい、最近では貴重な本を購入したりしながら、文字を解読してそれを読むと言う事をしているため、お金と言うモノを本に使ってしまう。
そっぽを向きながらクロに視線を向けなくなったアリスに対し、クロは再度ため息を吐きながら頭を抱える。
「……はぁ、おじい様からの援助は、姫様の父上にばれてしまい、現在止められている状態です。とりあえず、これからのお金の管理につきましては責任もって、僕が担当させていただきますね」
「ええ!!そ、そんなぁ……」
「……けどさぁ、レヴィアタン。最近、うちのご主人様、『欲』が出てきたんじゃないかなーなんて思って?」
「え、欲?」
「だって、あの屋敷に居る時は、本なんて買おうとしなかったじゃん……環境が変わったから、そういう『欲』が出るようになったんじゃない?」
「……喜ばしい事なんですかね?」
「フフ、喜ばしい事よ、レヴィアタン……少しずつ、人間らしくなってきたという事なんだからさ」
笑いながら答えるアスモデウスの姿に、クロは再度涙目になりながら震えて蹲り始める主人の姿を見つめ、静かに息を吐く。
契約した時は、確かにそのような事すら言わなかった彼女が今、少しずつだが『欲』が出始めていると言う事――アスモデウスの言う通り、人間らしくなってきたという事になる。
そして、これからまた彼女の『環境』が変わる。
「……さて、アーノルド・クライシスですか……一体どのような人物なのか、楽しみですね」
「フフ、ご主人様を傷つけようなら私、パクって食べちゃおうかなァ~」
「良いですね、それには賛成ですよ、アスモデウス」
「そうでしょうそうでしょう?」
「「フフフフフフッ……」」
「……え、ちょ、二人とも、怖いんだけどどうしたの?」
二人の会話が全く聞き取れていなかったアリスは、突如顔を見合わせながら笑い始める二人の姿に恐怖を覚えたのだった。
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