第33話、引っ越し対応、してません①
あの家にいるのが嫌だったからこそ、学園で勉強に集中したいと言う事もあってアリスは寮で部屋を借りる事にしたのだ。
別に出ていく事だって、家族は全く興味がないのか、声すらかけない。当たり前の日常のはずなのだが、アリスは今回の引っ越しも拒否と言う言葉すら出なかった。
拒否をしてしまったら、間違いなく頷くまで肯定させられると思ったからである。
「……なんでかなぁ」
静かにそのように呟きながら、アリスは簡単な荷物を持つ。
「ご主人様、お荷物はこれだけで大丈夫なんですか……本当、ドレスとか私服とか、そんなに置いてないんですねぇ」
「まぁ、服だってメリッサから借りたりしていたからなぁ……唯一高い服って言ったら、アーノルド様から頂いたドレスだよ……これ、返したいなぁ……」
「あら、ご主人様!これは返しちゃいけないモノですわよ!いざという時高値で売れるかもしれないのにィ」
「……やば、私の目絶対にお金の目になってた……」
フフと笑いながら答える、何故かメイド服を着ている『色欲』であるアスモデウスは楽しそうに笑いながら、アリスの引っ越しを手伝っている。
相変わらず何を考えているかわからない、妖艶たる女性なのだが、アリスにとっては大切な家族の一人だ。ケルベロスを本にしまった後、とりあえず引っ越しの手伝いをしていると突然強制に召喚されたアスモデウスはアリスの手伝いをし始めたのだ。
何故給仕の恰好をしているのか、不明なのだが。
ふと、アスモデウスはアリスに近づき、アーノルドからもらったドレスを彼女に合わせるようにしながら笑顔で答える。
「しかし、アーノルド様、でしたっけ?彼、センスがとてもいいですわね~ご主人様によく似合ってますよ、このドレス」
「え、そ、そうかな……」
「ええ、一度拝見しておきたかったですわぁ~その時がありましたら今度はぜひ、私にメイクさせてくださいね!」
「アスモデウスさんのメイク術すごそうだなぁ……まぁ、機会があれば、の話だけどね。とりあえず私の荷物はこれで終わり」
「……本当に、荷物が少ないですわね。未だに思いますが、私、ご主人様の実の家族には本当に苛立ちますわ……復讐したいとは思わないのですか?」
「めんどくさいし、興味ないよ。いつもそう言ってくれてありがとう、アスモデウスさん」
アリスはいつもの笑顔でアスモデウスの言葉に返事を返すと、彼女は一瞬身体を硬直させた後、頬を赤く染めた瞬間、そのままアリスにめがけて抱き着いてくる。
突然の行動に驚いたアリスだったが、アスモデウスは彼女の身体に顔をうずめながら唸りはじめ、彼女がこのような行動に出るのはは初めてだったので、アリスもちょっと慌ててしまう。
数十秒ほど唸る素振りを見せた後、そのまま顔を上げてアリスに目を向ける。少しだけ涙目になっているのは気のせいだろうか?
「も、もう、私のご主人様はどうしてそんなにかわいいんですか!もう、ペロって頂いてしまいたいぐらい!!女は流石にやばいから男になるので!あ、イケメン所望ですか?それともショタ!?」
「あ、アスモデウスさん、む、むね……」
何かを言っているような気がするのだが、その時のアリスはアスモデウスの胸に潰されかけていたので、息があまり出来ない状態だった。しかし、アスモデウスは暴走するばかりで、声が聞こえていない様子。離れようとしたのだが、アスモデウスの方が力があるので離れられない状態であり、これはどうしたら良いのだろうかと思った矢先。
アスモデウスとアリスを無理やり剥がしてくれた人物――『嫉妬』である、クロ(アリス命名)の姿があった。
「殺す気ですか、アスモデウス」
「げ、レヴィアタン……」
「く、クロ……」
「勝手に出てきてしまいすみません姫様、死にそうだったので出てきちゃいました」
「あー……うん、かなり助かりました……」
窒息しそうだったので、正直彼が出てきたことにはありがたく思う。息を静かに吐きながら答えると、クロはいつも通りの笑みを見せた後、隣に居たアスモデウスに目を向ける。
クロが出来た事でアスモデウスは嫌そうな顔をしていた。
シロが言うには、クロとアスモデウスは本当に、昔から仲が悪いと言っていた。
最初の頃から仲が悪く、しまいには村を、街を滅ぼすぐらいの喧嘩をやり始めると、青ざめた顔をしながら答えるシロの姿を思い出す。
睨みつけている二人にアリスは頭を抱えてしまった。とりあえず刺激をさせないように間に入らなければいけないと思いながら、アリスは手を動かす。
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