第32話、一部だけ説明してみる。②


 身体を硬直させているアリスに目を向けながら、アーノルドはそのまま話を続ける。


「アリスは、『七つの大罪』の事は秘密にしておきたいんだな?」

「え、ええ……正直秘密にしておきたいです。特に、家族には……」

「……今住んでいるのは、寮だったな」

「はい、寮です。家には私の部屋は小屋みたいな所ですし……」

「……」


 その言葉を聞いたアーノルドは少し驚いた顔をした後、再度考えるようにしながらアリスに視線をそらし、指先の爪を軽く噛みながら、鋭い視線をしている。

 余計な事を言っただろうかと余計に怖くなってきたアリスだったが、それを否定してくれたのは隣に居たリアムだ。


「アリス、アーノルドは君に対して怒っているわけじゃない。アーノルドが怒っているのは、さっき、お前が部屋の話をしただろう?」

「え、ええ、小屋みたいな部屋でしたから……」

「それにちょっと反応しただけだから気にしなくていい……まぁ、お前とは既に半年の付き合いだが、全く気にしていない顔をしているがな……」

「……まぁ、周りに恵まれていましたからね。家族だけです、私をないがしろにしたのは」


 へらっと笑いながら答えるアリスに、リアムは何も言えなかった。


 彼女は、周りには恵まれていた。

 街の人々、冒険者ギルドのギルドマスターに受付嬢、屋敷のメイドや執事、他にもいろんな人たちが彼女をないがしろにせず、手を伸ばしてきてくれた。

 最終的には『七つの大罪』に封印されている『彼ら』がアリスの傍に居て支えてくれたのだが。


 黙り込んでいたアーノルドが指先を噛むのをやめ、再度アリスに視線を向ける。とてもギラついた目で。


「ひっ!?」

「アリス……何故怯える?」

「……そんな目で見られたら、誰だって怯えると思うぞ、アーノルド」

「殿下、これが俺なんですよ」

「だから『悪魔』だなんていわれるんだ、アーノルド……ふさわしい二つ名かもしれないがな、お前には」

「ほぉ、言ってくれますね殿下……フフッ」

「僕は本当の事を言っただけだよ、アーノルド……フッ」


 リアムとアーノルドの二人はお互い顔を見合わせながら静かに笑っている姿をアリスは怯えながら見つめる事しかできない。

 そして同時に、ケルベロスの三匹も二人のやり取りを見て、怯えるようにしながらアリスの身体にしがみつき始める。


「ひ、姫様!ボク怖い……」

「ぼ、僕もォ……」

「サ、サムケガ……」

「よ、よしよし!怖くないからねーケルベロス……」


 あのケルベロスすら怯えさせる目の前の二人は、本当に人間なのだろうかと思いながら、優しく頭を撫でる。それほど、二人の雰囲気が危ない気がしたからである。

 怯えているケロべロスを宥めながら、アリスはアーノルドに声をかける。


「あ、あの……アーノルド様……それで、私に何か御用だったのでは?」

「ああ、そうだったな……アリス、引っ越しだ」

「…………はい?」


 突然何を言い出すのだろうかと思いながら驚いた顔をしてアーノルドに視線を向けるが、彼は真面目な顔をしながらアリスを見ている。

 つまり、上端ではなく、本気の目だ。

 リアムも突然のアーノルドの言葉に驚いたのか、その場で固まっている。

 そしてアーノルドは悪人面の笑みを浮かばせながらアリスに言った。


「明日から引っ越しする」

「え、ひ、引っ越し……え、何処へ?」


「――俺の家だ」


「…………はい?」


 アリスは思った。

 すぐに理解する頭が欲しいと。

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