第31話、将来を考える③
しかし、アリスはふと思ってしまった。
――『
(……家族はどうでも良いと思っているけど、流石にそれはやめてもらおうと、話をしよう)
青ざめた顔をしつつ、アリスは心の中で誓うのだった。
そんなアリスの姿にルシファーは首をかしげた後、再度アリスに目を向けゆっくりと立ち上がる。
「
「あ、はい!あ、あの……また、呼び出しても大丈夫ですか?」
「ああ、構わない」
立ち上がったルシファーは次の瞬間、消えていた大きな二つの翼を広げ、自分の身体を包むかのように、黒く光っている。
彼はそのままアリスに、真っ直ぐな視線を向けて、答える。
「エルシスは十八の誕生日に現れると言っていた……それまでは、私も、そしてお前も強くならなくてはならない」
「はい」
「――お前は、私の大切な主だ。いつでも呼べ」
無表情だったルシファーの顔が一瞬、笑ったかのように見えたのは気のせいだろうか?
確認しようとしたのだが、その時既にルシファーの姿はなく、残されたのはアリスのみ。
アリスは呆然としながら、ルシファーが居た場所に視線を向けていたのだが、魔導書に戻ったのだろうと理解したまま、再度、ゆっくりと魔導書を抱きしめる。
抱きしめたまま、アリスは自分の部屋にある鏡に視線を向けた。
「……十八の誕生日までまだ数年ある……それなら、やれることをやらなければならない」
魔導書を机の上に置いた瞬間、アリスは古びたクローゼットを開け、そこに大きな箱が入っていたので、急いでそれを取り出し、蓋を開けると、そこには大量の銅貨と少ない銀貨が姿を見せる。
「父上や母上は絶対にお金なんて出してもらえない。だけどまずは学園に入学しなきゃいけない。その為の資金と……あとは、祖父に頼むのが一番かもしれないけど……」
父方の方の祖父はリーフィア家で名の知れた魔術師だ。既に引退して田舎に引っ越しているのだが、それでも資金はある。
「……祖父に魔導書の事を話したら、何か言われるかもしれないけど……それでも、何かを学ぶことが出来るのであれば、学園に通った方がいい……十八歳の誕生日までに強くなって、エルシスに対抗する事が出来れば……」
ぶつぶつと呟くようにしながらアリスは頭の中で人生の設計を考えている。
背後にいつの間にかシロとクロの二人が立っていたなんて、気づかないまま、アリスは集中している。
「……あれだけ集中していれば、僕たちの事なんて気づかないでしょう、シロ」
「ああ、そうだな……ルシファーが話をしていたから気になっていたが、大丈夫のようだな」
「大丈夫、ではないですね。エルシスが彼女に目をつけてしまった……これから、どうするつもりですか、シロ?」
「……」
エルシスと言う存在は、二人にとっても『化け物』みたいなものだ。
唯一、互角に戦えるのは傲慢、ルシファーのみ。
クロとシロが束になっても勝てる相手ではないと言う事はわかっている。しかし、主であるアリスに目をつけた、となれば話は別だ。
舌打ちをしたシロはクロの返事に答える。
「とりあえず俺はご主人様であるアリスの言う事を聞くだけだ……学園、学ぶところに入りたいらしいな」
「ええ、そのためには金銭が必要になりそうですね……冒険者ギルドに登録しましたし、これから忙しくなりそうですね」
「ああ……しかし、相変わらずだなアイツ」
「え?」
「俺たちのような化け物に狙われているのに、嬉しそうに笑ってるんだぜ、うちのご主人様は」
ククっと笑いながら答えるシロに対し、クロは目を見開いて再度アリスに視線を向けると、ぶつぶつと呪文のように独り言を呟いているアリスの姿は何処か楽しそうにしている子供の姿だった。
シロの言葉を聞いたクロは頭を抱えながら、笑う。
「……今回の私たちの姫様は本当に、面白い人ですね、ねぇ、
「そうだな、
二人はお互い、名前を言った後、アリスに気づかれないように静かに消えていった。
楽しそうにしているアリスを残して。
▽ ▽ ▽
数年後、アリスは兄であるリチャードが通っていた学園に入学に成功する。
兄であるリチャードはリーフィア家を勘当されたらしく、出ていく前に一度だけアリスに会い、言った。
「気をつけろよ、アリス」
エルシスの事についてそのように言ったのであろう。アリスは静かに頷き、そのままリチャードと別れる事になった。
今のリチャードは騎士団で剣術を学びながら働いているらしい。
アリスは何とか試験に合格し、学園に入学する事が出来たのだが、やはり資金とかこれからの事のお金のやり取りも大変だった。結局、アリスは祖父に頼る事しか出来なかったが、祖父は家族と違ってアリスの事を認識してくれる人だった。
たまに金銭面に送ってくれる事もあるのだが、アリスは学園に入学してから、祖父から頂くお金を使う事は一度もなかった。何かあった時に使おうと残していたのである。
学園に入学していても結局はそこは貴族の世界。アリスは眼鏡をかけ、髪の毛を動きやすいようにまとめ、令嬢なのに地味さを残しながら生活していたからこそ、彼女はこのように言われるようになる。
『魔力なしの地味令嬢』と。
アリスにとって、別に勉強が出来れば、何を言われようと気にしなかった。そんな毎日を過ごしていた中、学園で夜会のパーティーが開かれることなかった。毎年それが行われるらしい。
その一週間前に、アリスのドレスが寿命を迎えてしまったのだ。
祖父からはお金を援助してもらっていたのだが、実はそれが父にばれてしまったので援助がなくなってしまったのである。さて、どうするかと考え、思わず同じクラスで話をしている友人未満の人が声をかけてくれたのである。
「アルバイト探しているなら、私の知り合いの所でアルバイトしてみますか?アリス様」
「え、良いのですか!?感謝!!」
アリスは嬉しそうにそのアルバイトを承諾。
しかし、まさかあのような運命が待っていたなんて、アリスは知る由もなかった――。
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