第29話、将来を考える①
あの後、ある意味大変だった。
ミリーナは妹であるメリッサと一緒に来て、メリッサがものすごくアリスに怒って、アリスは笑う事しかできなくて、遠目で兄と一緒に居た伯爵令嬢であり、リチャードの婚約者を見て、涙を流している様子があった。
それは当たり前なのかもしれない。
彼らは四人パーティーでゴブリン退治をしていたはずなのに、そのパーティーの二人が居なくなってしまったのだから。アリスと、リチャードの二人の中に流れている『血』のせいで。
メリッサの小言を聞きつつ、アリスはリチャードに目を向け、リチャードは婚約者の女の人の肩を支えるようにしながら、ふと、アリスに視線を向ける。
しかし、視線を向けてそのまま目が合っただけで、すぐにリチャードは目をそらしてしまった。もう、二人で話す事はないからである。
アリスも同様に、目をそらし、そのままメリッサとミリーナの話を聞きながら、静かに笑うことしかできなかった。
いつもの古びた部屋に戻り、アリスは静かに息を吐きながら、再度自分の魔導書である七つの大罪を開く。
シロとクロ、ケルベロスとアスモデウスの四人は既にこの本の中に入っており、休憩を取っている。
かなり三人と一匹には無理をさせてしまったのかもしれないと思いながら、アリスは窓の外に見える月に目を向ける。
自分の将来について。
そして、このままアリスはこの場所で、家族と思われていない人たちと生活していくことになるのだろうか?
「……」
アリスは何も言わずに、再度魔導書を開き、『ルシファー』と書かれている文字に目を向ける。
『アリス、君が十八歳になったら、もう一度君の前に姿を見せようと思う』
『え……』
『それまでは何もしないし、手を動かさない……だけど君が十八になったら――』
『――僕は、物語に出てくる『魔王』のように、世界を壊すつもりだから』
アリスは、エルシスと言う存在が何者かわからないが、明らかに目をつけられた事は間違いない。この『魔導書』を持った使命なのかもしれない、と深く考えてしまいながら。
「……使命なんて、考えすぎか」
フフっと笑いながら、アリスは本を閉じる。
「とりあえず地道にお金を稼がなきゃいけないな……勉強はしたいし、まだ古代文字とか解読してみたいとかあるし……やっぱ私、こもってちまちまやるのが好きなんだなL、きっと」
笑いながらそのように答えていた瞬間、突然目の前に現れた人物にアリスはその場で硬直する。
笑ったままだったので、顔がかなり引きつっている状態だったからである――突然、目の前に現れた、『
「……」
「え、っと……」
何をしゃべればいいのかわからず、いや、そもそも何故突然出てきたのか全く理解が出来ない。召喚自体の言葉すらも出していないのに、もしかして自由に出入り出来るのかと思っていると、ルシファーはその場に腰を下ろし、大きな黒い翼を消えるようにしまう。
しまった後、再度こちらに視線を向け、口を開く。
「良い夜だな、
「こ、こんばんわ、良い夜ですね……る、ルシファーさん」
「勝手に出てきてお詫びをする。少し、話をする事は可能か?」
「は、はい!」
話を持ち掛けられるとは思っていなかったので、アリスは少し嬉しくなってしまい、頬を少し赤く染めながら、手招きをされたので近くに行き、床に座る。
床に座ったと同時に、アリスは再度目の前にいるルシファーに目を向ける。
真正面から、そして近くからルシファーを見る事は初めてだったので、思わず目を見開いてしまった。
(両目、左右色が違うんだな……めっちゃ綺麗)
初めて会った時は遠目で見ていたので、このように近くで見るのは初めてだったので、少し緊張しながらも、アリスはキラキラと少しだけ輝くようにしながらルシファーを見る。
すると、ルシファーはアリスの視線に気づいたらしく、こちらに視線をジッと見つめてきたので、慌てる素振りを見せつつ、何とか心を落ち着かせた。
「……エルシスが出たそうだな、
「は、はい……」
「本の中で聞いていた……確かにエルシスの言う通り、リーフィアの人間が封印をしたのだが、その血で封印が解けるのは当たり前だろう。
「ご、ごめんなさい……兄のリチャードも悪気はなかったんですけど……」
「……いつかは、解ける封印だった。気にするな」
「え……」
「封印したリーフィア家の奴が言っていた。完全な封印をしたわけではない、とな」
「……」
エルシスが見せたモノ――明らかに人間ではないと言う空気、そして恐怖を味わった。
リチャードはそして仲間を失った。自分が解いてしまった封印のせいで。
兄も、そしてアリスも知らなかった。仕方がない事なのだ。
黙ったまま、何も言わないアリスに対し、ルシファーは一度、手を伸ばす事をやめようとしたのだが、そのまま再度手を伸ばし、アリスの頭に触れる。
「お前のせいではない、それだけを言いたかった」
「え……」
頭に触れられたと同時に、ルシファーはそのように発言した。
まるで、慰めているかのように。
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