第24話、全てを殲滅する王様③
アリスは自分が今暮らす世界が、嫌いだった。
しかし、今は違う。
手を伸ばしてくれる人たちもいるし、存在を無視する奴らも居るが、それでも笑顔で、声をかけてくれて、認知してくれる人たちだっている。
メイドや執事、街の人たち、そして、アリスが最も信頼している、『七つの大罪』に封印されている彼らを、アリスは今でも大事に思っている。
だからこそ、目の前の子供に壊されるのは、嫌だった。
「……エルシス、悪いけど、それは出来ない」
「え?」
「わ、私は、この世界が嫌い。壊しても良いと思っているけど……けど、今は違う。私には今、大切な人たちがいるから」
魔導書を強く、抱きしめるような形で、アリスは目の前のエルシスをまっすぐに見つめる。
「――この世界を壊すなら、私はあなたを止めなければいけないから」
「
「姫様」
シロとクロの二人がアリスの名を呼び、アリスは静かに頷く。
ケルベロス達も、そんなアリスの姿を見て静かに見つめていたので、アリスはそのままケルベロス達に手を伸ばし、優しく撫でる。
すると、一瞬驚いた顔をしていたエルシスはアリスを数秒見つめた後、笑いだした。大きく、高らかに。
「はっ……あはははははっ!ははっ!!魔力のほぼないリーフィアの家のモノが……世界を嫌っていたと思ったんだけど、君がどうやら違うみたいだね、アリス」
「確かに嫌いだったけど……私には手を伸ばしたら、受け取ってくれる人たちがいるから」
「……そうか。嫌われているのは、血筋だけなのか」
「一応、そうみたい」
「……恐怖がなくなったね。その目は、僕を排除する目だ……『アイツ』と同じ、目」
『アイツ』と言うのは誰の事なのか、アリスにはわからない。しかし、エルシスはアリスの目を見て、何処の誰かを思い出しているように見えた。
静かに笑いながら何かを呟いていた後、エルシスは再度アリスに目を向ける。指先を軽く鳴らして。
その指先から小さな赤い球のような存在が出てきた事に気づきながらも。
魔力で出来た球だと理解したアリスだったが、それ以上に早く動いたのがクロとシロだ。アリスを守るようにしながら前に出て構える。
「クロ、やれるか?」
「やるだけやりますよ……ただ、僕だけで勝てる相手ではありませんよ?寧ろシロが前に出てくださいよ、姫様は僕が守るので、そのまま逃げますから」
「おい、見捨てるつもりか俺を」
エルシスはシロに任せてアリスを連れて逃げようと思っているらしいが、アリス自体逃げるつもりはない。
逃げてしまったら、後ろで気絶している実の兄を見殺しにすることになってしまう。あれでも兄であるリチャードはアリスを盾にして逃げようとしなかった。だからこそ、見捨てる事は出来ない。
魔導書のページを開いて、もう一人召喚しようとしたのだが――。
「……ねぇ、アリス。アリスは『傲慢』は召喚出来るのかな?」
「……一度だけ、やった事はある」
「そっか……『傲慢』を召喚出来るのなら、きっと、君は良い子なんだろうね、アリス」
エルシスは何処か懐かしむような顔をした後、球体が静かに消える。
殺気と言うモノと、恐怖が感じられなくなったので、どうやら相手は戦う気はないようだ。
子供であるエルシスはにっこりと、笑いながらアリスに目を向けた。
「アリス、君が十八歳になったら、もう一度君の前に姿を見せようと思う」
「え……」
「それまでは何もしないし、手を動かさない……だけど君が十八になったら――」
「――僕は、物語に出てくる『魔王』のように、世界を壊すつもりだから」
そのようにエルシスが言った後、ゆっくりとアリスたちの横を通り過ぎる。
突然の彼の行動に理解が出来ないアリスたちは、呆然としながら通り過ぎていくエルシスの後ろ姿を見る事しかできない。
何処か楽しそうに笑っているエルシスの姿も、少しだけ不気味に思えてしまうのは気のせいではないだろう。子供のように、楽しく笑いながら背を向けて鼻歌を歌いながら歩いているエルシスは、去り際に再度、アリスを見た。
「だから、強くなってよアリス。精神も、肉体的にも……きっと君は、成長すると思うから」
楽しみだね、と最後にその言葉を残した瞬間、目の前に居たエルシスはまるで最初から居なかったかのように、消えてしまった。
残されたアリスたちは呆然としながらエルシスが消えた場所に視線を向け、固まっている。
「……い、なく、なりましたね、姫様」
「……おい、どういう事だ、クロ」
「私に聞かないで下さいよ、シロ」
「……」
「アルジ?」
「姫様?」
「ご主人様?」
ケルベロス達がアリスに目を向けて声をかけるが、アリスは目を見開いた状態のまま、黙っている。
同時にアリスは、エルシスが言っていた言葉が胸に刻まれていくような感覚を覚えたのである。
「……なんか、呪いかけられたみたいな発言だな」
静かにそのように呟きつつも、とりあえず今の脅威がこの場から去ってしまった事に、安堵を覚えつつも、同時に封印を解き、その封印していた存在が居なくなってしまった事に青ざめたのだった。
「……どんな報告すればいいんだろう」
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