第23話、全てを殲滅する王様②


 クロが前に出て指先を鳴らし、シロがアリスの身体を強く抱きしめるようにしながら一歩前に出て、お互い目の前の相手を睨みつける。同時に、目の前に立つ子供の姿を見て、シロが声を出す。


「おま……え、たしか……」

「――やぁ、こんにちわ、『憤怒サタン』……アイツルシファーは元気?」

「……ッ」

「……シロ?」


 アリスがシロに声をかけたが、返事をする事はなく、アリスを強く抱きしめながら唇を噛みしめている。

 クロも驚いた顔をしながらアリス、そしてシロの二人に視線を向けた後、再度二人の前に立ちふさがるようにしながら、構える。


「フフ、『嫉妬レヴィアタン』も相変わらずだね。そこまでして、大切なご主人様を僕に見せたくないんだね」

「……エルシス、何故あなたがこの場所に居るのか、説明してもらっても構わないでしょうか?」

「構わないよ。僕はここに封印されていて、そんでもって解いたのが君たちが言っているご主人様のお兄様だ」

「……リーフィア家の血か」

「そうだね、流石『憤怒サタン』はわかってるね」


 楽しそうに笑う目の前の子供――クロはエルシスと言っていた。この子供は一体何者なのか、リーフィア家の血と言うのはどういう意味なのか、アリスには全く理解できない。

 同時にクロとシロはため息を吐きながら頭を抱えてしまった。


「次の主人が、見つかるまでかなり年月が経っておりましたから……地形が変わっても仕方ないですよ、シロ」

「だが、気づかなかった俺達もどうかしてる……ここが封印の場所だったら、アリス、そしてアリスと同じを持つ人間を無理やり近づけさせなかった」

「……まさか、この時代に封印を解いてしまうとは思いませんでしたね」


 クロとシロの二人が一体何を言っているのか、アリスは理解出来ない。首をかしげながら二人を交互に見つめた後、アリスは今度は子供に視線を向ける。

 子供と目が合った瞬間、先ほどの恐怖が蘇ってきたのだが、今はクロと、そしてシロの二人が居る。足の方には子犬のように寄り添いながら子供に威嚇しているケルベロスの姿がある。

 二人と一匹が居るなら大丈夫だと認識したアリスは、シロに抱きかかえられるようにしながら子供に声をかける。


「えっと……エルシスって、呼んでもいい?」

「うん、良いよ。その代わり君の事をアリスって呼ばせてもらうね。君のお兄さんがそんな感じで呼んでたから」

「……うん、私はアリス・リーフィアだから……で、どうしてリーフィア家の血が関係しているのか、教えてもらってもいい?」


 アリスがクロやシロではなく、目の前の子供に話しかけた事に驚いた二人はアリスに声をかけたのだが、アリスがそれを停止する。

 子供の姿であるエルシスは、まっすぐに見つめてくるアリスの姿を見て一瞬驚いた顔をしたのだが、すぐにいつもの笑顔に戻り、一歩前に出た後、話を続けた。


「……さっき、僕を封印したのは『七つの大罪』を持つ所有者だったって教えたよね?」

「う、うん……」

「だけど、元々『七つの大罪』の魔導書に選ばれる相手は魔力がほぼない人間だ。そんな人間が僕のような存在が封印できると思う?」

「……誰かの力を借りた?」

「うん、勘のいい子は嫌いじゃないよ。そう、魔術師の力を借りたんだ。魔術師の名前はアレクリーズ・リーフィア――君たち二人と同じ血を持つ一族だよ。彼らの一族は魔術にかけていたからね」


 二人は元々仲間だった事もあり、信頼できる相手だったとエルシスは言っていた。クロとシロに視線を向けると、二人も静かに頷き、本当だという事を理解させてくれた。

 そして、このエルシスの封印を解いてしまったのは、アリスの兄でありリチャードが関係している。彼が扉を開いた事で封印されていた魔術はといけてしまい、エルシスが現れた、と言う事みたいだ。


「……エルシスは、これから何がしたいの?」

「何がしたいって簡単だよ……まずはリーフィア家の血を止めなきゃいけなくなるかなー?」

「……」


 笑いながら答えるアリスだったが、家族がそのように言われたところで、アリスと言う存在は全く何も感じる事が出来なかった。それほど自分、アリス・リーフィアは家族と言う存在がどうでもよくなっているのであろう。

 しかし、目の前の子供にとってはそうもいかない。つまり、その中にはアリスも入っている。

 普通の子供に見えるはずなのに、その子供の周りには『悪意』のような雰囲気が漂っているように感じてしまうのは、きっとアリスだけではないと思う。現にシロも、そしてクロの二人も、いつもより余裕のない表情をしているからだ。

 

「……エルシス、あなたは、何をするつもり?」

「何をするつもりって……それは簡単だよ、アリス」


 目的が分からないアリスがそのように答えると同時、子供だったはずの彼の笑顔はいつも以上に不気味に見えた。


「――僕はこの世界を壊すために、


 笑っているように見えるのに、ちっとも嬉しそうに見えないのか何故なのか、アリスにはわからない。

 ただ、一つだけ言えるのが、目の前にいる子供はアリスにとって、『敵』だという事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る