第22話、全てを殲滅する王様①
洞窟についたアリスがまず目に飛び込んできたのが、傷だらけのまま地面に座っている少女の姿。すぐにアリスは彼女が何者かわかった。
「ッ……しっかりしてください!」
「……ッ」
アリスの声に反応したから意識はまだあるし、息もしているが、ギリギリの状態だとすぐに理解した。
彼女は後ろに居たクロに視線を向けると、クロは笑顔で頷き、そのまま少女の方に近づいた。
「大丈夫ですかお嬢さん、意識はありますか?」
「……す、けて……」
「え?」
「――なかに、まだ……まだ、りちゃーど、たちが……」
「ッ!」
少女は震える声でアリスたちにそのように告げ、アリスの顔は真っ青に染まっていく。この中にまだ、リチャードが居るという事。
唇を噛みしめるようにしながら、アリスは魔導書を抱きしめるように持ちながら洞窟の中に向かって走り出す。
「おいッ!」
「アルジ!」
「ご主人様!」
「姫様!」
クロとケルベロス達がアリスに声をかけたが、アリスは構う事なく急いで走り出し、洞窟の奥に向かう。
洞窟の奥に徐々に進んでいくと、嫌な空気が漂ってくる。魔力があまりないアリスでもこれだけは感じ取れる。
『恐怖』と言うものが、アリスの肌に伝わってくるのだ。
「ッ……」
一瞬だけ、アリスはその場に立ち止まってしまい、動けなくなってしまった。この先に行ってしまったら戻ってこれるかどうかわからないからだ。
しかし、それでも、アリスはリチャードの元に向かわなければいけない。例え『家族』でなくなってしまったとしても、アリスにとってリチャードは、幼い頃優しくしてくれた兄と同じ存在なのだから。
息を深く吸い、再度足を動かし、走り出す。走って一分もしないで、アリスは洞窟の奥に到着する。
「ッ!」
声を出す事が出来なかった。
アリスがついた先に大きな扉が現れ、その扉が開いている。そしてそこから漂う『何か』にアリスは恐怖する。
そして、その中心に、アリスが探している人物が居た。
「あ……兄上ッ!」
「ッ……あ、アリス!?」
数年ぶりに聞いた妹だった少女の声に驚いたリチャードは、思わずアリスに視線を向けてしまったからなのか、次の瞬間リチャードは勢いよく飛ばされ、そのままアリスの横を通り過ぎる。
「ぐはっ!」
「兄上ッ……」
まるで何かに飛ばされたかのように、兄であるリチャードはそのまま崩れ落ちるように倒れていく。アリスは急いでリチャードに近づこうと背を向けようとしたのだが、背を向ける事が出来ない。
「――どこに行くの?」
小さな、子供のような声だった。
それと同時に、アリスは背を向けてはいけないとすぐさま悟る。
ゆっくり、息を殺して、アリスは視線を向けると、そこに黒い髪と赤い瞳をした少年のような、少女のような、子供が立っている。
その子供の右手は真っ赤に染まっており、左手には子供に不釣り合いな大剣が握りしめられている。
アリスは、その子供の姿を見て、恐怖を覚え、息が出来なくなる。
――これは、目をそらさなきゃいけない、出会ってはいけない存在だと。
「ねぇ、何処に行くの?」
「……あ、の……あなたが、兄を……リチャードを傷つけたの?」
「りちゃーど?それって、さっき俺に攻撃してきた人?酷いよね、いたいけな子供に攻撃するなんて……ああ、俺、かわいそう」
「……全然、可愛そうに、見えない」
「だってこんなかわいい子を――あれ、それ――」
「え……」
何かを話しかけていたその時、子供はアリスが抱きしめている魔導書に視線を向ける。
アリスが持っているのは、『七つの大罪』――七つの魔物が封印されている、そして所有者がその魔物たちを召喚出来る魔導書だ。
子供はその魔導書を見た瞬間、目を輝かせるようにしながら、アリスを見る。
「もしかして、『七つの大罪』の魔導書の所有者なの?」
「そう、だけど……あなたは、これを知ってるの?」
「知ってるも何も、俺をここに閉じ込めたのは、その所有者だったんだもの!」
「え……」
「――でもどうやら、さっき俺が吹き飛ばしたヤツが、俺の封印を解いたんだよね。、無意識に、ね♡」
子供が何を言っているのか理解できないまま、恐怖で動けなくなっているアリスに対し、子供はゆっくりと、静かに歩き出す。
もし、子供が言っている事が本当ならば、兄であるリチャードがどうして、無意識に封印と言うモノを解いてしまったのだろうか?
もし、この魔導書の以前の所有者がこの子供を閉じ込めたとしたら、何故リチャードが解けるのだろうか?
全くわけがわからない状態のまま近づいてくる子供に何もできず、アリスは一度目を閉じ、開いた時にはすぐ前に立っている。ジッとアリスを見つめるように、赤い瞳がアリスを捕えている。
「君は……なるほど、リーフィアの家系だね」
「え……」
「でもリーフィアって魔術師の家系だよね。それなのにあの子は剣で戦おうとするし……君は、魔力がほぼないからこそ、『七つの大罪』に選ばれたのだろうね」
「……ッ!」
楽しそうに笑いながらそのまま子供はアリスに手を伸ばしてくる。振り払いたいのに振り払う事が出来ないアリスだったが、目を閉じた瞬間、突然背後を強く引っ張られる。
「姫様ッ!」
「
彼女の名を力いっぱい叫びながら、強く抱きしめた。
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