第17話、兄と妹③


「あら、アリスちゃん?」

「こんにちわ、ミリーナさん」

「こんにちわ、冒険者ギルドに用事なんて珍しいわね」

「あははッ……」


 笑顔で挨拶をしてくれた冒険者ギルドの受付嬢、ミリーナの姿にアリスは笑いながら視線を逸らすのだった。


 何故、冒険者ギルドの受付嬢であるミリーナがアリスの事を知っているのかと言うと、彼女はアリスの屋敷で働いているメイド、メリッサの姉だからである。双子と思うぐらい顔はそっくりなのだが、髪色は全く違い、雰囲気もメリッサよりものほほんとしている感じの姿だ。

 ミリーナが何故アリスの事を知っているのか、それは時々メリッサがアリスを連れて家に訪れる事があるからだ。ついでに彼女が冒険者ギルドの受付嬢になっているという事も知っていた。

 そして、ミリーナもアリスがあの家でどのような扱いを受けているのか知っている。彼女にとってミリーナと言う存在は、可愛らしいお姉さん、と言う感じだ。


 いつものように、のほほんとした綺麗な笑顔で迎えてくれたミリーナに感謝しながら周りに視線を向けている。

 明らかにぎらついた目をしていた冒険者の面子が居るような感じがして正直困ってしまったアリスは視線を向けないように、とりあえずミリーナに目を向けようとしていると、ミリーナの視線はアリスではなく別の方向に視線を向けている。

 アリスの後ろに居る二人の姿に。


「……ねぇ、アリスちゃん。後ろに居る二人はお知り合い?」

「え、あー……いや、あの、その……」


 親戚のお兄ちゃんたちですなんて言ってしまったら、絶対に信じてもらえない。ミリーナはアリスがあの家では存在しないと扱われている事を知っているから絶対に信じてくれるはずがない。

 メリッサもミリーナにも、アリスは『七つの大罪』の魔導書の事を教えていない。後ろの二人は人間ではなく、封印されている『召喚獣』と言う存在なのだという事を。

 汗を流しながら、どのように答えようとした時、シロがアリスの頭を鷲掴みにし、何事もないかのようにしながら話始めた。


「……俺たちは昨日、この街に流れ着いたものだ。俺はシロ、隣に居るのはクロと言う。冒険者ギルドを探していると案内をしてくれる、と言ってくれたので案内をしてもらった」

「え……あ、うんうん!そうなのミリーナさん!」

「……そう、なのですか……えっと……冒険者登録、でしょうか?」

「ああ。俺たちは結構田舎から来ている。冒険者登録をしていないので、良ければさせてもらいたい……良いな、クロ」

「ええ、良いですよ、シロ」


 無表情で嘘を並べて答えているシロに対し、アリスは呆然としながら見ている事しかできなかった。そしてクロも笑顔で返事をしている。

 全く嘘と言う事を表に出さない二人にちょっと驚きながら、アリスはミリーナに再度目を向けて頷く。


「……でもアリスちゃん。今日は一人で家を抜け出したのかしら?メリッサには?

「あ……あははははー……」

「もう……相変わらずね、アリスちゃんは」


 ミリーナは再度ため息を吐きながらアリスに近づき、彼女の頭を優しく撫でる。そしてそのままアリスを抱き上げると、嬉しそうに笑った。


「こうしてみると随分背も伸びたわねー……アリスちゃんも大きくなって、お姉さん嬉しいわ」

「ミリーナさん……」

「……いつか、必ず。絶対にアリスちゃんの事、何とかして見せるからね。ないがしろにする家にあなたを置いておけないもの」

「……」


 ミリーナの言葉に、アリスの胸は深く突き刺さったかのような感じを覚えてしまった。


 昔、メリッサに家に連れていかれ、遊びに来た時ミリーナに突然このように言われた。


『ねぇ、いっその事、うちの子になっちゃう?』


 三か月後にミリーナは恋人と結ばれ、結婚を予定しており、夫婦になる予定だ。相手はどうやら冒険者ギルドで知り合った冒険者の一人らしい。

 ミリーナはアリスの家族のように無視する事もなければ、自分の事を考えてくれる存在だった。その言葉を聞いた瞬間、すごく嬉しい気持ちになると同時、不安な気持ちになってしまった。


 ミリーナが母親になってくれたらい、どんなに嬉しい事なのかを想像しながら。


『……ありがと、ミリーナさん』

『アリスちゃん……』

『でもね、私……いつかは自立してあの家を出る予定なの。もし、家を出た時にはお世話になろうかな……』

『……そう』


 きっとその時、今ではないだろうと思ったから、ミリーナに対し謝ると、彼女はいつもの笑顔で大丈夫だと言ってくれた。

 いつか、自立して、この街で一人で暮らせるようになった時に、お世話になろうと思ったからである。


 ――その未来は、いずれ出会う『悪魔』のせいで、なくなってしまったのだか。


 頭を撫でられながら嬉しそうに笑うミリーナに対し、アリスは頬を赤く染めるようにしながら視線をそらし、そんな二人のやり取りを幸せそうに見つめるクロの姿があった。


「おいクロ、顔が壊れかけてるような顔をしてるぞ」

「……いけませんねぇ……姫様があのような顔をするとどうも、緩んでしまいますねぇ」

「誰も居ない所でやれ、その顔は」

「承知しました……フフ」

「おい、涎」


 ミリーナのアリスの二人のやり取りを楽しそうに見つめながら涎をたらすクロが居たなど、アリスは知らない。

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