第15話、兄と妹①


 アリスは家族に無視されると言う形で育ち、冷遇されている。しかしそんな彼女を不憫に思ったのか、数人のメイドや執事など、声をかけてくれる人たちも多い中で生活する事が出来ている。

 今日も変わらず、いつものように一日が終わるはずだった。

 『七つの大罪』と言う魔導書を見つけて三年――アリスの日常は常に変化していた。

 最近ではクロとシロを召喚しては、話し相手になってもらったり、一緒に勉強をしたり、と言う事が続いている。

 『七つの大罪』に封印されている彼らを呼び出す事が出来るようになったと言うのは例え親しいメイド、メリッサにも内緒にしている。理由は簡単。


「今の生活に満足しているから」


 と言う内容だった。

 その事を聞いたクロとシロは一瞬驚いた顔をしていたと同時に、彼らはフフっと笑いながら答えた。


「フフっ……どうやら今回の主、姫様は目立つことが嫌いらしい、ですね」

「ああ、そのようだな……『アイツ』にそっくりだ」

「『アイツ』?」

「前のご主人様……私にとって最初の主でした」

「そして俺達をこの魔導書に封印した存在だ……そいつも目立つことは好きではなくてな。ひっそりと暮らして、ひっそりと家族を作って勝手に死んじまった」

「……そう、なんだ」


 アリスはまだ『七つの大罪』の彼らと深くまで交流した事はない。だからクロとシロの二人からそのような話を聞く事が出来たのは、初めてだった。だからこそ、正直知りたくなってしまった。

 彼らを封印して魔導書を作った相手は、一体どんな人物だったのだろうかと嬉しそうな目で話をしようとしたのだが、彼らはそれ以上何も話す事はなかった。


 ただ、『勝手に死んじまった』と言っていたシロの悲しそうな瞳を、アリスは忘れる事が出来ない。


 きっと、聞きたくない事なのだろうとすぐに理解したアリスはそれ以上追及する事をやめた。


「……ところで姫様」

「ん、何?」

「その、聞いてもよろしいでしょうか?」」

「ん?」


「――僕たちが居る場所の窓に視線を向けている青年はどこのどなたですか?」


「え?」


 笑顔でそのように言ってきたクロに対し、驚いたアリスが彼が指先で向けた場所に視線を向ける。

 いつもアリスが外を見ている窓だったので、隠れるようにしながら視線を向けると、そこには数日前に帰っていた実の兄、リチャード・リーフィアの姿はあったのである。

 何故彼が自分の部屋の窓に視線を向けているのか全く見当がつかない。ジッと見つめるようにしながら立っているリチャードに対し、少し青ざめた顔をしながらアリスはクロとシロに視線を向ける。


「えっと……いつ頃から居たの?」

「数分前から立っておりました」

「昨日も来てた」

「え、嘘!?」


 そのような発言を言われたアリスは驚いた顔をし、再度隠れるようにしながらリチャードに目を向けているのだが、彼はしっかりと、まっすぐな瞳でアリスが居るであろう居室に目を向けていた。

 今更目を向けられた所で、意味がないのに――と発言したかったが、アリスは発言する事が出来なかった。

 それからさらに数分アリスが居るであろう居室に目を向けた後、静かにため息を吐き、そのままいなくなる。

 行った事を確認したアリスは静かにため息を吐いたと同時に、入り口付近に人の気配が居るのが分かったので、扉に目を向ける。


「アリス様、お茶をお持ちいたしましたけど、飲みますか?」

「あ、うん、飲むよメリッサ……ほら、二人はとりあえず本に戻って。また、あとでお話しよう」

「ああ、わかった……じゃあまた後でなご主人様」

「ではまた姫様」


 いつものように本の中に戻った事を確認したアリスは、いつも隠している場所に『七つの大罪』の魔導書を隠すと同時にメリッサが扉を開ける。

 扉を開けると、嬉しそうに笑いながらアリスの為に持ってきたお茶菓子と紅茶を近くの机の上に置いた。


「今日は少しだけ奮発しちゃいました!おいしそうでしょう?」

「おお、少し高級なお菓子だー!ありがとうメリッサ!」

「いえいえ……それと、これから掃除を行う予定なので、アリス様はベッドの上の方に座っていただけますか?」

「うん、わかった」


 メリッサはどこから取り出したのかわからない掃除用具を両手に持ちながら、目をギラギラとさせている。ここは彼女の言う通りに従った方が良いなと思いながら、アリスはお菓子のクッキーを口の中に入れると、そのままベッドの方に移動する。

 隅の方に座りながら掃除を始めたメリッサの姿を見ながら、アリスはふと思い出したことがあったので、クッキーを飲み込んだ後に聞いてみる事にした。


「ねぇ、メリッサ」

「はい、何ですかお嬢様?」

「さっきさ、リチャード……リチャード兄上様が私の部屋の窓を見ていたんだけど、何か知らない?」

「…………はい?」


 その言葉を聞いたメリッサは少し驚いた顔をした後、持っていた掃除用具に一部を床に落としかけた。

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