第14話、魔導書、『七つの大罪』⑦
それから彼女は、まるで自分自身が古代文字を解読する研究員になったかのような顔をしながら半年ほど調べて調べまくって――ついに、魔導書の1ページを読む事に成功したのである。
半年間、シロとクロは温かい目で見守るような形でアリスを見ていたのだが、ついに読めた時に彼女の姿を見て、クロが一言。
「なんか、自分の娘が達成した感じで、なんか涙が出そうですお父さん」
「誰がお父さんだ。なんだ、お前がお母さんなのか?気持ち悪いんだけど」
そんなギャグをしている二人の事など気づかないまま、アリスは1ページ読めた事が嬉しくて、思わずシロとクロの方に向かって走り出した。
「シロさん、クロさん、私!やっと読めましたよ!!半年間頑張ったかいがあります!!」
「おめでとうございます姫様。とりあえず、何か食べた方がいいですね。メリッサさんの所に行って何か食べた方が良いかもしれないですね」
「ああ、クロの言う通りだ。その目の下の隈も何とかしたいところだが……ところで、お前はどのページで、どの名前を調べていたんだ?」
「えっとですね……」
楽しそうに、嬉しそうに笑いながら答えるアリスの姿を嬉しく思いながら居たのだが、次に聞いた言葉に対し、二人はとにかくアリスを止める行動に出るのだった。
「早速なので、召喚出来るのならしたいです!えっと、うーんと……『色欲』の、アス――」
「クロォ!すぐにうちのご主人様を止めろ!アイツが来る!!」
「了解しましたシロ!全力で止めさせていただきます!!大変申し訳ございませんが姫様!今その場に彼を呼ぶことはおやめくださいぃぃ!!」
歩く成人向け作品が出てきそうになったので、シロとクロは急いでアリスの口を閉ざし、魔導書から流れる魔力の流れを無理やり切るのだった。
半年間調べてまさかそこが『色欲』のページだったという事に驚いた二人は、残念そうな、今にも泣きそうな顔をしているアリスをとりあえず慰めるのだった。
それからも、アリスは全てのページを解読するために、無理なく、時々休憩を入れながらも、一生懸命解読を試みてそれから三年。
三年もたてば、アリスは成長する。
少しだけ背が伸びた事と、少しだけ胸のふくらみが出てきたことに嬉しく思いながら、アリスは徐々に七つの大罪の魔導書をマスターするようになっていた。
そして、クロ、シロと呼んでいた二人の事も呼び出す事が出来るようになったのだが、相変わらず彼らを呼ぶ時は『クロ』、『シロ』と言う形になってしまっている。
なんだかんだ言いつつ、アリスはこの二人の事を家族のように好きになっていた。
しかし、例え『七つの大罪』と言う魔導書を所持していた所で、アリスの待遇は変わらない。相変わらず父や母、兄たちはアリスの事をないものとして扱っていた李しているし、アリス自身もそれは苦ではない。既に彼女自身は『家族』に関しては諦めており、愛されるつもりでもないからだ。
今日も、いつもと変わらない一日が始まろうとしている。
アリスは窓の外を静かに眺めながら、古びた布団と、大量の本を自分で作った本棚にしまいながら、外を見つめていた。
「オハヨウ、アルジ」
「おはよう、ご主人様!」
「おはようひめさまぁー」
「……うん、おはよう、ケルベロス」
三つの頭に一つの身体。
可愛らしい子犬の姿をしているモノこそ、『七つの大罪』の魔導書に封印されている一つ、『暴食』の『ベルゼブブ』――こと、ケルベロス。
本来の名前は『ベルゼブブ』なのだが、この子犬の姿をした怪物はどうやら名前が気に入っていないと言う事で、アリスが『ケルベロス』と言う名前をつけてあげたのだ。
新しい名前に気に入ったケルベロスは三つの頭でそれぞれ違う意志を持っている。そして彼らはアリスの事を慕っている。
最近では子犬の姿で呼び出され、嬉しそうに彼女の周りにまとわりついている、可愛らしい存在である。
窓の外に視線を向けていたアリスに少し疑問に思ったのか、ケルベロスが彼女に問いかける。
「アルジ、カナシソウナカオデマドノソト、ミテタ」
「何かあったの、ご主人様?」
「ひめさまに悪い事をしようとするやつがいるの?」
「え、あ、ううん、そんなんじゃないの。ただ、殺気窓の外から見えたんだけど、上の兄上が帰ってきてたんだよねー」
「「「あにうえ?」」」
「うん、一番上の兄……リチャードだったっけ……昔はよくお話していたんだけどね」
まだ魔力装置で魔力を計っていない頃、良き兄としてアリスの事を気にかけてくれたのだなと思い出していた。今となってはどうでもよい話なのだが。
そんな兄が学園から帰ってきたのか、家族と一緒に外で話している姿がちょうど見えたので、アリスは思わず視線を送ってしまったのだ。
「……」
嬉しそうに笑いながら家族に囲まれているリチャードの姿に、アリスは何も言えなかった。寧ろもう、あの時に見せた笑顔は自分に向けてくれないのだと考えたアリスは、静かに唇を噛みしめながら視線をそらす。
少しだけ、悲しそうな顔をしていたのかもしれない。ケルベロスたちはそんな彼女を見て不安そうな顔をしながら、アリスの傍に寄り添うのだった。
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