第13話、魔導書、『七つの大罪』⑥
数分程泣いた後、アリスは涙を汚れたハンカチで軽く拭きながら、クロとシロに視線を向ける。
この二人なら、信用しても良いのだろうか――この家の一部もメイドや執事のように、信頼できる相手なのだろうかと、不安になりながら二人を見つめていると、シロがアリスの方に視線を向け、静かに笑う。
不適な笑みを見せたシロにちょっと驚きながら、アリスは魔導書に目を向けた。
「え、えっと……その、触媒にして、召喚するって言うのは、どうしたら、良いの?」
「簡単だ。名前を呼べば良い」
「え、名前?」
「……ええ、僕たちの『名前』を呼べば、僕たちはそれに応じ、召喚されます。あくまで、契約者……つまり姫様だけ限定ですけど」
ショックから立ち直ったクロが嬉しそうに笑いながら答えており、そんなクロの様子をシロは静かにため息を吐きながら見つめていた。
『名前』を呼べば良いと言われたのだが、アリスはそもそも目の前の二人の本来の名前も知らない。クロとシロなんて明らかに偽名に見える。
そして、本の中身ですらアリシアは文章が読めない。きっと名前が書かれていると思ったのだが、これでは彼らの言う『名前』を呼ぶ事も出来ず、召喚することも出来なくなると考え、顔が徐々に青ざめた。
「……もしかして、文字が読めなくて泣きそうなのか?」
「あーなるほど、確かに今の時代の文字ではありませんからねー……では、姫様。これから説明させていただきますね」
クロはアリスの隣に立ち、嬉しそうに笑顔を見せながら一つ一つ説明してくれた。
「本文には僕達の本来、縛られている名前、罪、その他諸々書かれておりますが、まぁ、名前と罪の文字だけ覚えていただければ結構ですから」
「え……罪って……」
「『七つの大罪』って書いてあるだろう。俺達には『罪状』と言うモノがある」
「僕は『嫉妬』」
「俺は『憤怒』」
「その他にも『傲慢』、『怠惰』、『強欲』、『暴食』、『色欲』……あわせて七つ」
「??」
「……頭がパンクしそうな顔をしていますね」
「そりゃ、まだ子供だからな、俺達のご主人様は」
色々と難しい文字を教えられた事でアリスの頭はパンクしそうだった。元々頭があまりよくないアリスにとって、それを覚えるのが難しい。
呆然としながら頭の回転をしつつ、何とかメモを取る事に成功したアリスはこれから覚える事が出来るのが不安になる。
不安そうな顔をしながらアリスは思わずシロに視線を向けてしまった。
「……そんな目で俺を見るな」
「おや、随分と僕が放心状態の時に気に入られてしまったようですね……となると、今回の姫様の護衛兼お目付け役は、シロ……いえ、『憤怒』が行うと言う事になりますかね?」
「やめてくれ……俺よりお前の方が適任だろう?」
「視線はあなたにいっていますけどね……まぁ、僕の方も見ていただきたいです。『嫉妬』してしまいそうなので」
「……冗談にも聞こえないぞ」
フフっと笑いながら答えるクロ――いや、『嫉妬』に対し、『憤怒』は頭を抑えながら深くため息を吐いて、再度アリスに視線を向ける。
アリスも申し訳なさそうな顔をしながら視線をそらし、魔導書に目を向ける。
「えっと、『嫉妬』さん……あの、この文字は何語、なんですか?」
「書いてある文字ですか?確か、メラシカ語と言う古代文字です」
「メラシカ語……」
「……おや、姫様?」
「目がキラキラしてるぞ、おい」
アリスは嬉しそうにその文章のを見つめながら、目を輝かせていた。
そして、彼女は決心をする。
『メラシカ語』と言う古代文字を覚えよう、と言う事を。
頭は良くないし、魔力もほぼないが、彼女は研究心と言うモノはある。元々古代文字と言う文章は好きだったし、本で何冊か調べて何文字か解読した事もあった。
そして、アリスは調べると決めたら徹底的に調べる――と言う事でそれから彼女の日常は一変したのである。
「……なるほど、今回の主はどうやら研究心がある人物なのですね」
「ありゃ寝ずに調べる性格だな。いつかぶっ倒れるぞおい」
そんな事を言われていたなんて、アリスは知る由もなかった。
それから彼女は一週間、屋敷の書物やメイドたちにお願いしつつ、何とか『メラシカ語』の古代文字が詳しく書かれている書物を発見。どうやら父親のコレクションの一つだったものを盗んだアリスはフフっと笑いながら解読を始める。
寝ない日が何日も続いた時もあったのだが、彼女は気になる事があれば調べたいタイプだったらしく、シロもクロも声をかけても彼女は反応せずに古代文字の解読を調べているのだった。
「……ここまでの人っていました?」
「俺は初めてな人種だな……ったく、ぶっ倒れても知らないぞ、おい」
シロの言う通り、五日間寝ないで調べたアリスは次の日限界を迎えたのであった。
当然、メリッサたちにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
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