第12話、魔導書、『七つの大罪』⑤


 リーフィア家は昔から、魔術師としての家系として動いている。

 だからこそ、アリスのような存在が生まれてはいけないと、魔力装置で判定が出た時のあの父親の顔が忘れられない。

 結局は、アリスと言う存在はこの家族から抹消されており、アリスは既に父親、母親とは数年も会っていない。

 それほど、アリス・リーフィアと言う存在は、この家では生きていけないモノなのだ。

 何も言わなくなってしまったアリスに対し、クロとシロはお互い顔を見合わせながら、再度アリスに視線を向ける。


「どうしたご主人様……俺達、何か変な事を言ったか?」

「姫様、僕達、何か変な事おっしゃいましたでしょうか?」

「……気になったんだけど、『ご主人様』や、『姫様』って言うのは何?なんか、キモチワルイ……」

「き、キモチワルイ……」

「ハハっ!気持ち悪いだとよ!今回のご主人様は面白いな!!」

「??」


 クロはショックを受けたような顔をしており、シロは面白そうに笑っている姿があり、アリスは余計なことを言ってしまっただろうかと首をかしげたが、笑っていたシロがすぐさま冷静さを取り戻し、真顔に戻る。

 クッキーをすべて食べ終え、アリスに近づきながら話を始める。


「どうして俺がお前の事を『ご主人様』と呼ぶのは、お前は署名しただろ?この本に?」

「え、あ……う、うん、署名して、そして私のモノ?になったんだよね?」

「そうだ。契約はなされた。アンタがこれに、この『七つの大罪』と言う魔導書に署名をした事で俺達にとってアンタは『主』なんだよ」

「それは……なんで?」


「――この魔導書は『触媒』だって、クロが言っただろう?」


 『触媒』――確かにクロがそのように言ったのをアリスは覚えており、静かに頷く。

 二人でクロに視線を向けると、彼は余程ショックだったのか、涙目になりながら遠い目をしている姿が見受けられ、その姿を見たシロはため息を吐く。


「アレは今は忘れろ。俺が説明する」

「……忘れていいの?」

「ああ、忘れろ。数分もすれば元に戻る」


 簡単に言ったシロは何事もなかったかのように話を始める。

 アリスはしっかりと聞く耳を立て始めた時、シロは机に置いてあった魔導書に手を伸ばし、その表紙をアリスに見せる。

 そしてページを開き、最後の方のページを開いた。


「これ、ココだ。最後のページの右端の所に、赤い宝石のような物が埋め込まれているだろう?」

「あ、本当だ……小っちゃくて見えなかった」

「これは魔石。とある人物の魔力が封印されている。この魔石の力を借りて、魔導書である『七つの大罪』は『触媒』となる」

「しょくばいって……どういう意味での?」

「……封印されている『俺達』をこの地に下ろす事が出来る。つまり、『召喚』だ」

「え……」


 まっすぐな瞳でそのように言ってきているシロの姿に驚いた。だって現にアリスの目の前にはシロが居るのだから。向こうではショックを受けているクロの姿がはっきりと見えている。

 驚いた顔をしながらシロとクロを交互に見ているアリスの姿を見て、悟ったシロが話を続ける。


「俺達が見えているって言う事だろう?」

「う、うん……」

「見えているんじゃない。お前にしか見えていないんだ」

「え、ど、どうして……ゆ、幽霊!?」

「違う違う。って言うか俺達を幽霊って言うな。生きてるわ…………多分、うん、間違いない」

「ちょ、怖い!?」


 何処か遠い目をし始めているシロの姿に、アリスは恐怖を感じつつも、再度シロとそしてクロに視線を向けてみる。

 何も見えない、と言うわけではないのだが、確かに少しだけ透けているように見えているのは、正直気のせいだと思いたい。

 そんな事を考えつつ、再度魔導書に目を向けながら、アリスは呟いた。


「……つまり、この魔導書を触媒って言うモノにして、呪文みたいなのを唱えたら、この中に居る人たちが出てくるの?」

「そういう事だ。因みにこの所有物は現在お前だ……この中に七つの『怪物』が眠っている……俺とクロはある意味特別だ。この魔導書の所有物になった人物を見つける係と説明する係に任命されている」

「……それに、私が選ばれた」

「……この『七つの大罪』の魔導書を所有する人間の一つが、魔力と言うものがほぼない存在じゃないといけない」

「……」


 ――魔力のない娘など、私の娘ではない。


 突如、アリスの頭の中に流れてきた言葉は、あの時父親に全てを否定された事だった。

 魔力がないから、魔術なんて学んだところで無意味だった。剣術なんて運動があまり得意ではないので覚えたところで意味はない。


 そんな自分自身が、『召喚術』と言う存在が使えるという事なのだろうか?


「……シロ、さん」

「なんだ?」

「……これを使ったら、私……もう、バカにされたり、しないかな?」

「……そうだな。一応『召喚術』も魔法の一種みたいなものだ。それに、周りがお前をバカにしても、無視しても、『俺達』は決して、永遠に、死ぬまでお前を裏切らない。傍に居る」

「……そば、に?」

「ああ、傍に居る。何が何でも」


 シロの言葉を聞いた瞬間、アリスは唇を震わせながら、静かに涙を一粒、零す。

 言葉がうまく出ず、アリスはただ唇を噛みしめたまま、静かに泣き始める。そんなアリスの様子をシロは何も言わず静かに黙ったまま、彼女の震える背中を優しく撫でるのだった。

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