第04話、アリス・リーフィア①
――五歳から、アリスは家族に居ないモノとして扱われてきた。
別に、苦ではない。
アリスは既に、自分で生きられるほどの『力』を身に着けていたのだから。
▽ ▽ ▽
「……」
頭を抑えるようにしながら、アリスは今、部屋から一歩も出たくない状態だった。それは、当然なのである。
部屋に戻ると送ってくれたドレスを一目散に脱ぎ、ぐしゃぐしゃにならないようにクローゼットにしまう。そして、ベッドに飛びつくようにしながら横になり、そのまま自分の夢の中に入っていく。
起床した後、これは夢なのではないだろうかと考えたのだが、全く持ってこれは夢ではないと感じられた。だって送られてきたドレスがあるのだから。
「……昨日の事が全部、夢だったらいいのに」
アリスは静かに、歯を食いしばるようにしながら呟いた。
アーノルド・クライシス
別名、『悪魔』の侯爵子息。
真っ黒な髪で、それはまるで悪魔のような笑み――黒髪の時に気づくべきだったと、アリスは後悔する。
とりあえず、部屋から出ないと授業に遅れるのは間違いないのだがら、今日一日だけでもこの部屋に、布団に潜りたい気持ちでいっぱいだった。しかし、それは絶対に許されることではない。
魔力なしの地味令嬢――きっと、その噂は学園から広がっているに違いない。地味令嬢があの悪魔の侯爵子息に求婚された、と言う噂を。
別に求婚されたところで、逃げ出すように無理だと言ったから、諦めてくれないだろうかと思いつつ、ふとアリスが過ったのは実家の事だ。
家族や給仕たちは全てアリスをないがしろにしているのはわかっている。そんなアリスがあのクライシス侯爵の子息に求婚されたと言うのは絶対に伝わっている。
何人かの給仕の人たち、そして兄は仲は良くないが会話程度はしてくれている。きっと、兄は声をかけてくるだろう。
「……そろそろ、授業に向かわないといけないなぁ」
アリスは制服に手を伸ばし、軽く髪の毛を直した後、寝不足そうな顔で部屋から出ていき、今日も学問に励むために外に出る。
気持ちの良い風が吹いており、アリスはその空気を静かに吸いながら、気合をいれるのだった。
それから十分後、アリスは結局の所授業は遅刻するなと言う状態に襲われるのである。
「――どういう事か説明してもらっていいか、アリス」
「……兄上」
外に出て数分後、突然目の前に現れた血の繋がりのある兄、リチャード・リーフィアが姿を見せた。
何故彼がここにいるのか理解が出来ないアリスは深くため息を吐きながら、家族と同様に興味なさそうな顔を見せながら、リチャードに視線を向ける。
「おはようございます兄上、授業が始まってしまうので、ここをどいていただけるとありがたいです」
「そんな事はどうでも良い、聞いたぞアリス……あのクライシス侯爵の子息と何処で出会った?」
「出会ったと言われましても、兄上、あの方は一つ上の先輩でございますよ。すれ違った時に声をかけられた、その程度です。もちろん、私が魔力なしだと言う事を理解して、声をかけてくれたらしいですが」
「それでも……ああ、ったく、お前にはそんな話出てこないと思っていたんだが、よりにもよって、あのクライシス侯爵の子息と……」
深くため息を吐きながら、頭を抑えるようにして答える彼の姿を、アリスは冷たい目で静かに見つめている。
例えこのように声をかけてくるようになってくれた兄でも、アリスにとって『家族』と言うのはどうでもよい相手なのだ。寧ろ、全く興味がないので、多分心配されているのだとわかるのだが、それはアリスにとって迷惑でしかない。
アリスは静かに息を吐いた。
「兄上、その件については兄上には関係あるのですか?」
「関係あるだろう、だって――」
「……私は兄上たちとは家族ではないでしょう?」
「ッ!!」
リチャードはその言葉を聞いた瞬間、何も言えなくなってしまった。しかしアリスは笑顔でそのように言ってきたのだ。
リチャードとアリスは普通に会話をする事をしているが、他の家族はアリスはないモノとして扱っている。彼女はそれ以上に自分でお金を稼ぎながら生活している。
援助と言うモノすらなく――そんな彼女に対してリチャードは何を言えるのだろうか?いや、何も言えない。
口が動かなくなってしまったリチャードに対して、アリスはお辞儀をした後、そのまま彼の隣を素通りして歩き始めた。唇を噛みしめながら、リチャードは再度アリスに視線を向け、叫ぶ。
「アリス!お前が『アレ』を、見せれば、父上だって――」
「……兄上、それはないです。私が使うのは、『魔術』ではありませんし……そもそも、代用して使っているだけです」
アリスにとって、家族と言うのは既にどうでもよい存在になってしまっている。それは、リチャードもわかっているからこそ、おせっかいをしてくる。リチャードはアリスが『強い』と言う事は知っている。
――しかし、それは彼女の『力』ではない事は、彼女自身わかっているのだ。
「私は家族に『認めてもらう』と言う事すら、興味ないので大丈夫ですよ、兄上」
何処か寂しそうな顔をしながら答えるアリスに、リチャードはそれ以上何も言える事は出来なかった。彼女はそのままお辞儀をした後、再度授業を受ける為、学園に向けて歩き出した。
残された兄、リチャードは拳を握りしめながら、背を向けたアリスを見つめ続けていた。
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